【ロンドンの甃】外出制限の「不条理」





ロンドンの自宅に着いたカミングス首席顧問=5月25日(ロイター)

 「あいつだけは許さん」。5月下旬。ロンドン市民の知人と電話で世間話をしていたとき、普段は穏やかな知人が怒りを交えた口調でそう言い放った。怒りの矛先はジョンソン英首相の側近で、首相官邸の「陰の権力者」とも呼ばれるカミングス上級顧問。カミングス氏が新型コロナウイルス対策として実施された外出制限に違反した疑いが浮上したことに腹を立てた。「外出を控えようと我慢した市民の努力に水を差した」と怒り心頭だ。

 カミングス氏に激怒する市民は多く、5月下旬は連日のように抗議する人々が同氏の自宅周辺に殺到した。市民が大画面を備え付けた自動車を自宅前に停車させ、ジョンソン氏が「自宅待機」を呼び掛けた映像を流す光景も見られた。周辺ではカミングス氏を中傷する落書きも発見され、警察が出動する騒ぎも起こったという。

 市民が怒りを爆発させた要因の一つは、外出制限をめぐる不条理さへのいら立ちだろう。カミングス氏は外出制限下でロンドンから約400キロ離れた両親宅を訪問した自身の行為を「適切だった」と主張した。だが、政府は外出制限で離れて暮らす家族への訪問自粛を要請していて、親族の死に目にあえなかった人もいる。「政府の要請を守ったことを後悔している」。市民の一人はそう悔しそうにつぶやいた。(板東和正)



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