生産能力を削減する構造改革費用などで巨額赤字を計上した日産自動車が、反転攻勢へ新型車の連続投入に取り組み始めた。コロナ禍で世界の自動車需要が悪化しているのに加え、人材流出で社内基盤の揺らぎも懸念されるなど、経営環境は厳しい。内田誠社長が29日の株主総会で、新戦略について株主にどのように説明するか注目される。
「電動化と自動運転技術のリーダーとして、日本市場を牽引(けんいん)したい。『キックスeパワー』は、その先陣を切るモデルだ」。6月24日、電動小型スポーツ用多目的車(SUV)「キックス」国内発売のオンライン発表会で、星野朝子副社長は新型車の投入戦略に自信を示した。
キックスは「日本市場で10年ぶりとなるニューモデル」(星野氏)。軽自動車以外で、国内で改良ではない完全新車種としては平成22年、当時、世界初の量産電気自動車(EV)として社運をかけて投入した「リーフ」以来で、関係者にとっては待ちに待ったお披露目の舞台だった。
自動車メーカーのビジネスモデルは、新型車の継続的投入で高い利益率を確保できるかがカギを握る。しかし日産はここ数年、軽の「デイズ」「ルークス」などの全面改良車を発売したものの、競合他社に比べて見劣りしていた。
「技術の日産」といわれただけあって、高速道での手離し運転を可能にする新技術「プロパイロット2.0」などを投入しているが、収益の抜本的な改革には至っていない。主力の米国市場では値引き販売依存から脱却しきれず、ブランド力の回復が遅れていた。
5月に発表した新中期経営計画のメーンシナリオは、電動化などの独自技術を前面に打ち出し、新型車を「1年半で12車種」投入するというものだ。内田氏は発表会見で「競争力を高める」と力を込めた。
日産によると、来年末までに計画中の12車種のうち、北米では日本の「エクストレイル」にあたるSUV「ローグ」新型車を6月に発売したのを皮切りに、SUV「パスファインダー」と「QX60」などを全面改良する予定だ。
国内では、エンジンで発電した電力でモーターを回し、クルマを走らせる独自技術「eパワー」を軸に、リーフに始まる10年間の経験で培った電動化技術を活用。7月には、2つのモーターによる四輪制御システムを搭載するまったく新しいEVのSUV「アリア」を発売する。国内販売台数に占める電動化率について、現在の25%から令和5年度末に60%に引き上げる目標だ。