【ロンドン=板東和正】英国統治時代最後の香港総督、クリス・パッテン氏(76)が29日までに産経新聞の電話取材に応じた。中国による「香港国家安全維持法」導入について、一国二制度による香港返還を定めた中英共同宣言と「完全に反しそうだ」と懸念を示し、習近平政権下で「全体主義」に傾斜する中国を批判。香港問題を「良識や法の支配と共産主義の戦い」と位置付け、国際社会に一段の協調対応を求めた。
パッテン氏は1997年の香港返還まで約5年間、総督を務め、自由選挙の拡大など香港の民主主義の基盤整備に尽力した。中国に返還する前に「可能な限り自由で平等な選挙制度を確保し、法の支配と人々の権利を保護する」ためだったと振り返った。
香港市民の基本的人権を制限する香港国家安全維持法の導入は、「自由が約束された香港社会に中国の政治システムを押しつけること」であり、2047年まで香港の高度な自治を保障した中英共同宣言という「国際合意を無視」する行為と強調。香港返還時には「中国共産党が約束を守ると信じていたが、私は間違っていた。非常に失望している」と述べた。
パッテン氏は中国共産党が香港返還以降、10年以上は共同宣言をおおむね順守してきたとする一方、13年の習近平国家主席の就任後は「過去の『全体主義』に回帰」し、「約束破りを繰り返してきた」と指摘。南シナ海での拡張主義的な動きなどを踏まえ、「国際的なギャングのように振る舞っている」と批判。香港国家安全維持法導入には、各国が新型コロナウイルス流行への対処で「中国の動向に注意を払わなかった」状況に乗じた行為とした。
中国が覇権主義を強める中、パッテン氏は「全体主義国家は法の支配を決して信じない」とし、香港国家安全維持法をめぐる問題は「良識や法の支配と共産主義の戦いだ」との見解を示した。
パッテン氏は国際社会の対応として「重大な懸念」を表明した先進7カ国(G7)の共同声明を評価する一方、トランプ米大統領の下で同盟諸国との関係に齟齬(そご)をきたす米国には、今後のリーダーシップの発揮を期待。その上で「悪事には責任が伴う」と中国に明確にすべきであり、経済的措置も念頭に、自由民主主義国家が団結して厳しい態度をで臨む必要性を訴えた。
◇
クリス・パッテン英サッチャー、メージャー両政権下で、保守党の幹事長などを歴任。1992年に香港総督に任命され、97年7月1日の中国返還まで務めた。欧州連合(EU)欧州委員などを経て、2003年から英オックスフォード大名誉総長。05年に英国貴族院議員に任命されている。