【香港に生きる】国安法支持の金融界 本音は「地雷どこにあるか分からない」





取材に応じ、香港国家安全維持法に対する危機感を語る張氏

 中国の国家政権転覆行為などを禁止する「香港国家安全維持法」(国安法)の施行を受けて、香港の金融街では歓迎ムードが醸成される一方、業界の関係者たちは「どこに地雷が埋まっているか分からない」と警戒感を募らせている。

 香港の金融街、中環(セントラル)にそびえる香港上海銀行ビル。同行の親会社、英金融大手HSBCホールディングスは「香港の社会秩序を安定させる」として、国安法への支持を表明している。他の大手銀行も同様のスタンスを取る。

 「業務上の“支持”にすぎない。顧客の企業には中国系が多いので、そうするほかない」と話すのは、中環にオフィスを構える証券会社の香港人幹部、張漢勝氏(38)=仮名=だ。新規株式公開(IPO)業務を担っている。同社も中国系である。

 「米国市場に上場している中国の有力企業が、香港に重複上場する動きが相次いでいる。香港市場は活況を呈しているようにみえるかもしれない。しかし…」

 中環のビルではオフィスの解約が増えつつあるという。外国企業の撤退が始まっているのだ。経済状況の悪化だけが原因ではない。国安法の中長期的影響も考慮しての動きだと、張氏はみている。

 「香港のビジネスは(米、英、香港で通用する)コモンロー(慣習法)によって保障されてきた。過去の判例を重視する法体系だから、ビジネス上のトラブルも予測可能だった。しかし国安法ではそうはいかない」

 国安法は香港の他の法律より優先される上、中国側が条文の解釈権をもつ。中国本土へ容疑者を移送し、中国本土の法律で裁くことも可能だ。全ては中国側の意向次第といえる。

 また国安法は、海外勢力のために中国の国家安全にかかわる国家機密や情報を窃取したり、探ったりすることなども禁じている。

 「しかし国家機密の定義があいまいだ。国安法の適用範囲も広く、どこに地雷が埋まっているか分からない中で、ビジネスをしていかなければならない」

 そう警鐘を鳴らす張氏には“特技”があった。不動産や会社を売買して資産を増やしていくボードゲーム「モノポリー」に、めっぽう強い。世界選手権出場の実績を持つ。

 「交渉力、情報把握力を養える。5歳のころに始めた。もちろん人生は、ゲームより複雑だけどね」

 ゲームに国安法のような“落とし穴”はない。プレーヤーは刑務所に入ってもゲームを続けられる。唯一、破産をした場合、ゲームオーバーとなる。

 現実はどうか。破産をしても人生は終わらない。でも「中国本土に移送されたら、おしまいだ」。そう考える香港人は実に多い。(香港 藤本欣也)



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