文部科学省が全国の私立大学に対し、学生の「入学料に係る負担軽減への配慮」を求める通知を出しました。これは、受験生が複数の大学に合格した際、進学しない大学に対しても入学金を支払わなければならない、いわゆる「入学金の二重払い」問題に対応するものです。さらに、文科省は10月にQ&A集を公開し、私立大学に一層の対応を促しています。この問題は、受験生の経済的負担が大きい一方で、私立大学が置かれている厳しい経営状況という二つの側面を抱えており、その解決には複雑な背景が横たわっています。
「入学金二重払い」問題の具体的な内容と背景
多くの受験生は、第一志望校への合格を確実にするため、複数の併願校を受験します。これは受験に失敗しないための現実的な安全策の一つです。併願校に合格し、入学の権利を確保するためには、多くの場合、期日までに「入学金」や「入学申込金」などの費用を納入する必要があります。しかし、納入後に第一志望の大学に合格し、併願校への入学を辞退した場合でも、一度支払った入学金は原則として返還されません。このシステムが、受験生にとっては「入学しない大学に入学金を払う」という奇妙な構図を生み出し、大きな経済的負担となっています。まさに「掛け捨ての保険」のような形で、入学金が処理されているのが現状です。
大学入試のイメージ、私立大学の入学金問題を示す
受験生の生の声:複数回支払いの事例
この「入学金二重払い」問題の深刻さは、具体的な受験生のエピソードからもうかがえます。かつて筆者が塾のチューターをしていた際、担当クラスに3回も入学金を支払った生徒がいました。彼は多浪を避けるため、まず年内に実施される中堅私立大学の奨学生入試を受験し、一般合格を得て1回目の入学手続きを行いました。その後、難関私立大学にも合格したため、2回目の入学手続きを済ませました。通常であればここで手続きは完了ですが、さらに優秀だった彼は、受験していた国公立大学にも合格。最終的に、大学院進学も視野に入れ、国公立大学への進学を選びました。彼は「いったい、何回入学金を払えばよいのですか」と恨めしそうにこぼしていたのが忘れられません。当時はこれが大学受験の「常識」とされていましたが、自身の身に降りかかると、その不合理さに直面せざるを得ません。
私立大学が抱える厳しい現実と通知への対応
文部科学省は「入学しない大学に入学金を払うのはおかしい」という学生側の主張が全く正しいと認めつつも、私立大学側の事情にも配慮しています。文科省の通知やQ&A集は、私立大学に追加のプレッシャーを与える形となっていますが、私立大学の多くは厳しい財政状況に直面しており、入学金の返還が経営をさらに圧迫する可能性も指摘されています。11月に発表された民間団体の調査結果では、受験生の負担軽減に配慮している大学は都内でわずか4校だと報じられており、多くの私立大学が入学金返還に踏み切れない現実が浮き彫りになっています。少子化が進む中で、学生確保と安定した大学運営の両立は、私立大学にとって喫緊の課題となっています。
結論:学生と大学、双方の課題解決に向けて
私立大学の「入学金二重払い」問題は、受験生の経済的負担を軽減し、より公平な大学入試制度を実現する上で避けて通れない課題です。同時に、教育機関としての私立大学が持続的に運営していくための財政基盤をどう確保していくかという側面も持ち合わせています。文部科学省の要請は、この問題に対する社会的な関心の高まりを示しており、今後、学生支援と大学運営のバランスを取りながら、双方にとってより良い解決策が模索されることが期待されます。





