新型コロナウイルスの感染者数増加を受け、菅政権が需要喚起策「Go Toキャンペーン」の扱いをめぐりジレンマに陥っている。
【図解】Go To キャンペーンの仕組み(2020年6月)
感染防止を優先してキャンペーンを中止すれば、経済再生への打撃になりかねないとの懸念があるためだ。感染拡大の「第3波」到来とも指摘される中、今後の対応には難しい判断を迫られる。
「緊急事態宣言や『Go To』キャンペーンの見直しは、専門家も現時点でそのような状況にはないとの認識を示している」。菅義偉首相は13日、首相官邸で記者団にこう語り、現時点では国民の社会経済活動の大幅な制限につながる措置を講じることに慎重な姿勢を崩さなかった。
一連のキャンペーンは首相が官房長官当時に展開した肝煎りの政策。効果には手応えを感じており、7日に地元・横浜市で開かれた会合に出席した際は「『Go To』で旅行、飲食、演劇やコンサート、商店街のイベントを応援していく」と強調。十分な感染防止対策を講じれば「移動で感染拡大は起こらない」と自信を示した。
「Go To トラベル」は7月にスタート。その後に東京発着分も加わり、地方の観光業者らは旅行客がさらに戻ることを期待している。ここでキャンペーンを中止すれば混乱が生じるのは必至。できるだけ継続したいのが政権の本音だ。
折しも国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が15日に来日する。このタイミングで厳しい措置に踏み切れば、来夏の東京五輪・パラリンピック開催に向け日本への悪印象を残しかねない。政府高官は「キャンペーンはやめない」と言い切る。
ただ、キャンペーン継続はさらなる感染拡大のリスクをはらむ。13日には全国で1日当たり過去最多のコロナ感染者を確認。大阪府や長野県などで最多を更新し、ここにきて「第3波と考えていい」(中川俊男日本医師会会長)という感染状況になっている。
観光地で知られる北海道・利尻島の飲食店では、道内の離島で初めてとなるクラスター(感染者集団)が発生するなど、大規模な人の移動が各地に感染を広げている可能性もある。
こうした中、この1週間で政府のコロナ対策本部が開かれたのはわずか1回。首相の記者会見も行われていない。政府分科会の尾身茂会長は、感染者が急増する状況を示す「ステージ3」に当たると判断した場合、キャンペーンを停止すべきだと指摘している。政権の対応が後手に回れば、国民の批判が強まることも予想される。
官房長官当時、「危機管理に強い」と評された首相。政権発足から間もなく2カ月で早くも試練が訪れている。