TSMCの劉徳音会長
今年「スーパーサイクル」(長期好況)に対する期待感が大きかった韓国の半導体市場に暗雲が立ち込めた。贈賄事件で裁判を受けた李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長が18日に拘束されサムスンの半導体投資と執行に支障が懸念されるからだ。
ひとまずサムスン電子は日常的な業務を継続している。19日にはソウル・江南区(カンナムグ)のソウルマルチキャンパスで「サムスン青年SWアカデミー」の5期入学式が予定通りに行われた。IT生態系を拡大し青年就業を支援する教育プログラムだ。裁判所の注文で設立されたが「実効性基準を満たしていない」という判断を受けたサムスン順法監視委員会もそのまま維持するというのがサムスンの立場だ。「静かな非常経営」ということだ。だが社内では落胆する雰囲気が歴然としている。ある財界関係者は「最近LGやSKは大規模買収合併や投資誘致に積極的だったが、サムスンはオーナーの不在で『現状維持』にだけ汲々とすることになるだろう」と懸念する。
専門家らは李副会長の拘束が韓国の経済・産業界に悪影響を及ぼすと予想する。大規模投資や買収合併のような主要決定が遅れるほかなくなり、グローバルな人材確保も事実上中断されるものとみられる。高麗(コリョ)大学経営学部のパク・ギョンソ教授は「すぐに経営に問題が生じることはないが、専門経営者は5~10年後に成果が出る研究開発のような未来の収益源確保に積極的になりにくいのが現実」と話した。
特に韓国の輸出の約20%を占める半導体産業に対する懸念が大きい。サムスンはメモリー半導体分野では独歩的1位だが、システム半導体など非メモリー分野では台湾TSMC、米国のクアルコム、日本のソニーなどに押されている。これと関連しサムスン電子は2030年までに133兆ウォンを投資してシステム半導体世界1位になるという「半導体ビジョン2030」を出している。今年だけでシステム半導体分野に12兆ウォンを投資する計画だった。だが専門家らは李副会長の不在によりサムスン電子が競合企業との技術速度競争で押されることを懸念する。サムスンがTSMCを猛追撃中であるファウンドリー(半導体委託生産)分野が特にそうだ。現在世界で5ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)以下の超微細工程が可能な企業はTSMCとサムスン電子だけだ。第5世代(5G)スマートフォンに必要なアプリケーションプロセッサ(AP)を大量生産できる企業も事実上2社だけだ。
ところが最近TSMCは今年250億~280億ドルの設備投資をすると発表した。昨年の2倍水準で過去最大だ。設備投資の大部分は5ナノメートル以下の超微細化工程に集中する予定だ。ほぼ同じ時期にサムスン電子はオーナー拘束という悪材料を迎えた。極東大学半導体装備工学科のチェ・ジェソン教授は「半導体生産ラインは数十兆ウォンの天文学的金額が投じられるため専門経営者が決めるには限界がある。TSMCがさらに遠く跳躍しようとするこの時期に技術革新速度が遅れるならば格差を狭めるのが難しくなるだろう」と話す。
李副会長が「獄中経営」をするのではないかとの見通しも出ているが、現実的に容易ではない。相続問題も解決しなければならず、経営権継承裁判も準備しなければならない。財界関係者は「1日の面会時間が10分なのに経営陣が額を突き合わせて長時間の検討と議論を経て決めるべきことを報告して決裁するのは非現実的」と話した。