暴力団が「そば店」で定例会 指導された店主の言い分


暴力団が「そば店」で定例会 指導された店主の言い分

大阪府警本部の外観。府警は暴排条例を踏まえ、飲食店などに暴力団への毅然とした対応を求めている=大阪市中央区(竹川禎一郎撮影)

【表でみる】暴排条例禁止されている主な事項

■月に一度の収入

その男たちは明らかに異質だった。

月に一度、同府東大阪市内のそば店を訪れる十数人の男たち。見るからに堅気ではない風貌で、そのうち一人は仲間を「兄貴」と呼んだ。彼らはいつも店で一番高価な天ぷらそばを注文し、1人当たり1500円ほど支払って帰った。

男たちは店側に素性を明かしていたわけではない。ただ、暴力団関係者であることは明らかだった。同店店主の30代男性は「新型コロナウイルスの影響で売り上げが減る中、月に1度、間違いなく入る収入はありがたかった」と振り返る。

男たちが店に通い始めて半年ほどたった令和3年6月、大阪府警が暴力団関係の事件を捜査する過程でその正体が判明する。捜査関係者によると、男たちは特定抗争指定暴力団山口組系4次団体の組員ら。組員同士の結束を強める定例会を開くため、同店を利用していたのだ。

組員らが同店を選んだのは、暴力団対策法で指定されている府内の警戒区域(大阪市、豊中市)から外れていたためだ。区域内では特定抗争指定暴力団の組員が5人以上で集まることが禁止されており、さらにコロナ禍で会合を開ける飲食店が限られていたこともあった。50代組長は「(店は)ネットで調べた。区域内だとパクられるため、区域外で会合を開いた」と説明した。

店主は「脅されていたわけでも迷惑をかけられたわけでもない。世間のやくざのイメージとは違った」としながらも、予約が入った際は他の客と鉢合わせないよう、店を貸し切りにするなど便宜を図っていた。この行為が、暴力団への利益供与を禁じる同条例に抵触するとして、府公安委員会は2~3月、店主と組長にそれぞれ指導を行った。

こうした現状について、捜査関係者は「飲食店側はすぐに最寄りの警察署に相談するなど暴力団に毅然(きぜん)と対応してほしいが、いざ対面すると難しいこともあるだろう」と話す。

■口止め料や用心棒代も

警察庁によると、全国で同条例を適用した事例は令和3年に92件。内訳は勧告45件▽中止命令17件▽再発防止命令3件▽検挙27件-だった。暴力団の威力を利用する目的で現金を供与した風俗店の経営者や、用心棒を依頼する対価として現金を渡した飲食店店主などが対象となった。

同条例は平成23年までに全国の都道府県で施行され10年あまりがたつが、適用件数はほぼ横ばいだ。そうした中、府警捜査4課は事業者がどのような要求を受けているのか把握するため、飲食店や風俗店などの事業者に対しインターネット上でアンケートを実施している。

内容は、口止め料や用心棒代などといった金品を要求されたかどうかを問うもの。暴力団と密接な関係があるとされる事業者に関する情報についても募集している。いち早く情報をつかみ、暴力団の取り締まりにつなげる構えだ。

府警幹部は「抗争が続く中、暴力団対策法や暴排条例の効果はある」とする一方、「こうした締め付けによって活動の実態が見えづらくなっているのも事実。昔ながらのシノギ(資金獲得活動)はいまだに残っており、不正の端緒をつかんで府民の安心と安全に寄与したい」と力を込めた。



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