自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

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日本政府や防衛省は「自衛隊の弾薬備蓄が不足し、航空機などのスペアパーツが不足して日常的に共食い整備が行われている」と認めたが、この問題は「予算を配分さえすれば解消する」という単純な話ではない気がする。

各メーカーの供給能力は上限に達しており、増産に取り掛かっても年単位のリードタイムが発生する

日本政府や防衛省は「自衛隊の弾薬備蓄が不足し、航空機などのスペアパーツが不足して日常的に共食い整備が行われている」と認め、この問題を解決するための予算増額を要求しているが、これを防衛産業企業やサプライチェーンの問題から読み解くと中々興味深い事実が見えてくるので、自衛隊が直面する問題は「予算を配分さえすれば解消する」という単純な話ではない気がする。

自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

出典:public domain SM-3を試射する護衛艦こんごう

自衛隊の弾薬備蓄の内「何がどれぐらい不足しているのか」は不明だが、防衛省は「ミサイル防衛で使用する迎撃ミサイルの保有数が必要とされる量の約6割しか確保出来ていない」と述べているので、SM-3とPAC-3の合計が定数の60%しかないという意味だ。

SM-3の正確な年間製造量は不明だが、米海軍は2018年までに150発のSM-3IAと182発のSM-3IBを取得して47発を試射で消耗、24発をルーマニアのイージス・アショアに配備しているため、BMD対応艦に配備されているSM-3の数は265発しかなく年間製造量を多く見積もっても数十発レベルだろう。

自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Alyssa Chuluda

PAC-3MSEの年間製造量についてロッキード・マーティンは「約300発(2022年10月)」だと明かしており、2022年末にアーカンソー州の新工場が稼働すれば「2024年までにPAC-3MSEの年間製造量は約500発に増加する」と述べているが、この生産量引き上げは既に買い手=米陸軍(毎年122発~240発)や既存の導入国向け、新たにパトリオットを導入したポーランド、ルーマニア、スウェーデン(3ヶ国の当初発注だけでも576発)で埋まっている。

つまり「金を出すので直ぐにSM-3やPAC-3MSEを欲しい」と要請しても各メーカーの供給能力は上限に達しており、複雑化した装備や弾薬の増産にはサプライチェーンの製造能力も改善しなければならないため、仮に増産に取り掛かっても年単位のリードタイムが発生するのが現実(具体的な例で言えばジャベリンやスティンガーの増産体制を整えるに1年~2年掛かる)だ。

自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

出典:Voice of America

日本が国産巡航ミサイル(12式地対艦誘導弾・能力向上型)配備までのギャップを埋めるため導入を検討しているトマホークも状況は同じで、米軍の年間発注量=メーカーの製造能力は154発(2022会計年度)に過ぎず、MK.41を流用したロングレンジウェポンの実用化に向けて陸軍も海軍からトマホークを融通してもらっているため、日本がトマホークの調達を許可されても限られた製造量を米軍と奪い合う形になり、効果的な反撃能力=十分な量を保有した状態を構築するには相当時間がかかるだろう。

問題は日本だけが弾薬備蓄やスペアパーツの不足に悩んでいる訳では無いという点で、ウクライナ侵攻を受けて欧米諸国も2023年度予算で弾薬備蓄やスペアパーツの確保に動く可能性が高く、パトリオット、F-35A、AIM-120D、AIM-9X、SM-6I、SM-2ERといった主要装備に新規発注が殺到すれば納品までの時間が長くなるのは確実だ。

自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

これを避けるためには2023年度予算で発注するのではなく「今直ぐ発注を入れる」ことが重要で、この問題で他国を出し抜いているのがポーランドだと言える。

ポーランドは年度単位でしか執行できない国防予算とは別財源で調達契約を立て続けに締結、結果的にそうなったのか、狙っていたのかは謎だが「調達先も米国と韓国に分けて防衛産業界の製造能力を買い漁っている」と言っても良く、日本の発注が遅れれば遅れるほど各国との熾烈な調達競争に巻き込まれるだろう。

自衛隊の弾薬・スペアパーツ不足、予算配分で直ぐに解決するとは限らない

出典:海上自衛隊 対潜哨戒機P-1

因みにC-2やP-1も構成部品の40%~60%を輸入=海外のサプライヤーに頼っている状態(これが悪いという意味ではなく国産=ネジ1本まで日本製というのはもはやナンセンス)なので、国産装備品の維持も国際的なサプライチェーンの供給能力に掛かっており、この状況を日本政府や防衛省が上手くコントロールできるのかに注目したい。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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