多彩な分野の専門家による知識がコンパクトにまとめられた「新書」。高橋昌一郎氏が責任を持って選び抜いた価値ある新書100冊の中から、この記事では、『タコの知性』と『魚にも自分がわかる』の2冊を紹介する。タコやホンソメワケベラなど一見単純そうに見える生物が持つ驚異的な知能は、進化の歴史を考察するための新たな観点を提供してくれる。動物たちの認知能力の進化は、どんな未来を示しているのだろうか。※本稿は、高橋昌一郎『新書100冊 視野を広げる読書』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
● チンパンジー超え? タコは他のタコから学ぶ!
『タコの知性』(朝日新書)を読んで筆者はこう思う。
日本人は、タコをよく食べる。刺身に握り鮨、タコ酢にタコの天ぷらや唐揚げ、おでんの具にもなるし、子どもたちはタコ焼きが大好きだ。ゆでダコはサラダやマリネ、炒め料理にもマッチする。海外のアヒージョやパエリア、カラマリにも欠かせない。タコが「万能食材」と呼ばれる所以である。
タコをイカのような軟体動物から際立たせている特徴といえば、その巨大な脳である。タコの体重に対する脳のサイズは、およそ高等脊椎動物(哺乳類や鳥類)と下等脊椎動物(両生類や爬虫類や魚類)の間にある。タコは、その重い脳を6本の腕で支えて「2足歩行」もできる。凄すぎるではないか!
一口に「タコ」といっても、250種が世界の海洋に分布し、その寿命は1~2年と非常に短い。それにもかかわらず、マダコにボールを提示し、そのボールを攻撃したときに餌を与えることを繰り返すと、そのマダコはボールを攻撃するようになる。つまり、イヌと同じレベルの条件付けが成立するのである。
さらに、イタリアのタコ研究者として知られるグラツィアーノ・フィオリトとピエトロ・スコットが行った実験では、マダコに赤いボールと白いボールを同時に見せて、赤いボールを攻撃すれば餌を与え、白いボールを攻撃すれば電気ショックを与える。この水槽を透明な仕切りで隔てて、その様子を他のマダコに見せる。そのマダコは、何が起こっているのかを熱心に観察する。
さて、実験を見ていたマダコに赤いボールと白いボールを見せると、なんとこのマダコは、赤いボールだけを攻撃するというのである。一般に、同種の他個体の行動を見て学ぶことを「観察学習」と呼ぶ。これは、チンパンジーでも難しいといわれる学習だが、マダコには、その能力があるというのだ!