この国の行く末を決める「超短期決戦」の衆院選はいよいよ終盤戦に突入。自民党に逆風が吹くなか、連立政権を支える公明党も正念場を迎えている。埼玉14区では、石井啓一代表が比例に重複立候補をせずに小選挙区に勝負を賭けるという「落ちたら終わり」の背水の陣で、まさかの接戦を強いられている。公明党関係者の脳裏に浮かぶのは、当時の代表が〝討ち死に〟をした15年前の悪夢だ。
「予想以上に厳しい情勢」
「なかなかシビアな数字が出ている。もともと厳しい戦いになるとは思っていたが、これほどとは…」。投開票日前の最後の週末を終えた公明党関係者は言葉を失った。選挙戦中盤に実施した報道各社の情勢調査の結果に「衝撃を受けた」という。
注視しているのは、「埼玉14区」。首都圏のベッドタウンである草加市や三郷市を抱えるこの選挙区は、「1票の格差」是正のための「10増10減」の区割り変更の影響を受けた選挙区だ。そこに唯一の与党候補として名乗りを上げたのが、9月に党代表に就任したばかりの石井啓一代表なのである。
重複立候補をしていないことから、比例復活はなく、小選挙区で敗北すれば国政からの退場を強いられるという危機的な状況にあるが、「予想以上に厳しい情勢」(同)なのだという。
メディアの情勢調査もその実情を如実に映し出している。
「埼玉14区には石井氏を含めて計6人が立候補していますが、ライバルとなっているのは国民民主党から立候補している鈴木義弘氏です。
その鈴木氏との戦いで、いずれのメディアの調査でも厳しい結果が出ているのです。日経は石井氏を『やや優勢』としていますが、毎日は『接戦』、読売は『激しく競り合う』としており、いずれも横一線の戦いであることを示している。陣営は相当危機感を募らせているようです」(大手紙政治部記者)
党勢維持への「深刻な危機感」
今回が小選挙区としては初陣となる石井氏。1993年の初当選以来、比例代表東京ブロックや北関東ブロックで当選を重ねるなか、公明が2023年3月に石井氏の擁立を決めた。
連立を組む自民側としては選挙区を譲った格好となったが、その合意に至るまでには両党での激しい駆け引きがあったのだという。
「『10増10減』で選挙区の数が増えたのは東京、神奈川、愛知、埼玉、千葉の5都県。あわせて10の選挙区で調整が行なわれましたが、決定に至るまでには揉めに揉めた。
埼玉では、今回から県内の選挙区が1増で計16区になり、これまで草加、三郷市などを地盤に自民で当選してきた2人が、それぞれ3区と13区から出馬することになりました。
新たな区割りとなった14区に石井氏が入り込む形となりましたが、地元の県連同士の話し合いはすんなりいったわけではなかった。石井氏の出馬を巡って自民党県連の反発は大きく、今もしこりが残っている状況です」(同前)
選挙区を巡る与党内での対立が表面化したのは昨年5月。当時、幹事長だった石井氏が、茂木敏充幹事長(当時)ら自民執行部に「信頼関係が地に落ちた」と言い放ち、東京の選挙区での選挙協力の解消を通告したことが明らかとなり、政局への影響が取り沙汰された。
公明側が強硬な態度を崩さなかった背景には、党勢維持への深刻な危機感があったともされる。
「支持母体である創価学会の会員の高齢化が進み、集票力にも陰りが出ています。比例代表の得票数は減少が続き、2022年の参院選挙では目標に掲げていた800万票に遠く及ばず、得票数は618万票にとどまった。
党勢の衰えに歯止めをかけるためにも、党内きっての実力者である石井氏を小選挙区に送り込むことで勝負をかけたのです」(同前)