日本の芸能事務所が直面する苦境:時代と共に変化する業界の現状と未来

近年、日本の芸能界では、長年にわたり業界を支えてきた老舗芸能事務所がかつてない苦境に立たされています。テレビ不況やギャラ削減、そしてビジネスモデルの陳腐化がその背景にあり、芸能界の勢力図は大きく変化しようとしています。女優の飯沼愛が来年放送予定の人気ドラマ『VIVANT』続編に出演しないことが判明し、所属事務所である田辺エージェンシーが契約満了を異例の早さで発表した事例は、その象徴とも言えるでしょう。創業者が第一線を退き、堺雅人といった看板俳優が独立する中、田辺エージェンシーのように事業のスリム化を進める動きは、多くの老舗事務所で共通して見られます。

老舗芸能事務所を襲う「テレビ不況」と「ギャラ削減」の波

長引くテレビ不況は番組数の減少とギャラの削減を招き、多くの芸能プロダクションに深刻な影響を与えています。これが直接的な打撃となり、閉業や事業規模の縮小を余儀なくされるケースが後を絶ちません。昨年4月には、吉岡里帆など人気タレントが多数所属していた「A-Team」が芸能業務を休業し、全タレントが移籍や独立を余儀なくされたことは記憶に新しい出来事です。さらに同年11月には、藤原紀香や篠田麻里子らが所属していた「サムデイ」が東京地方裁判所から破産開始決定を受けるに至り、老舗事務所が直面する厳しい現実を浮き彫りにしました。

会議室で議論する人々。芸能事務所の苦境を象徴会議室で議論する人々。芸能事務所の苦境を象徴

時代に合わなくなったビジネスモデルとタレント独立の増加

芸能プロ幹部は、老舗プロダクションが苦境に立たされている最大の理由を「ビジネスモデルが時代にマッチしなくなった」ことだと指摘します。多くの老舗事務所は少数精鋭で、タレントを手厚くサポートし、時間をかけて息の長いキャリアを築くことを得意としてきました。しかし、現代の配信ビジネスの隆盛に対応するTikTokerやインフルエンサーのような“旬なタレント”を即座に発掘し、マネジメントする能力には不得手な面があります。

さらに、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)が公正取引委員会から注意を受けて以降、タレントが独立しやすくなったことも大きな要因です。老舗事務所では、所属タレントが創業者に「育ててもらった」という恩義を感じていることが多く、トップが代替わりするタイミングで事務所を離れるケースが少なくありません。人気タレントであれば、事務所に所属しなくても仕事のオファーが来るため、独立を選ぶインセンティブが高まっています。

生き残りの鍵は「多角化」と「マーケティング」にあり

制作会社のディレクターは、これからの芸能事務所は「マネジメント業務以外もやっていく必要がある」と断言します。テレビのギャラが年々下がる一方である現状では、マネジメント業務だけでは十分な収益を上げることが難しいからです。ホリプロや吉本興業のように舞台制作や映像事業部を持つ老舗は比較的安泰とされており、イベント企画会社からスタートしたアソビシステムのように、ファンに直接課金してもらえるビジネスを展開する事務所も好調です。

時代を先読みし、世間のニーズを探るマーケティングも欠かせません。その上で、ニーズにマッチした人材を発掘・育成し、次々とオーディションに参加させるシステムを構築し、タレントと強固な関係性を築くことが求められます。こうした変化に対応できない事務所は、芸能界で生き残ることが困難になるでしょう。

芸能界は今、大きな転換期を迎えています。老舗事務所が生き残るためには、これまでの成功体験に固執せず、時代の変化に合わせた柔軟なビジネスモデルへの転換と、多様な収益源の確保が不可欠となるでしょう。


参考文献