まるで「ウクライナ戦争」を予見したかのよう…軍事分析のプロが「傑作だ」と称賛する「90年代人気アニメ」の名前


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 ※本稿は、高橋杉雄『SFアニメと戦争』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■リアルロボット路線の究極形だった『パト2』

 日本のSFアニメと戦争の関係を考察する上で絶対に外すことができない作品に、『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)がある。

 『機動警察パトレイバー』(1988年)は、コミック版、OVA版、テレビ版が展開したメディアミックス的な作品で、舞台は世紀末の東京である。そこでは、レイバーと呼ばれる二足歩行のロボットが実用化され、土木作業などを行うようになっており、レイバーの普及とともに犯罪にも使われるようになったため、警察もレイバー犯罪取り締まり用のパトロール用レイバー(略して「パトレイバー」と呼称される)を「特殊車両二課」(略して「特車二課」と呼称される)という組織を作って運用している世界における物語である。

 舞台が現実の東京であり、警視庁という現実の組織の警察官が登場人物になっているために、「リアリティ」の度合いが極めて高く、いわゆる「リアルロボット」路線のある種の究極の姿だといえる。

 劇場版第1作の『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)では、現在の目から見てもまったく古いと感じさせないレベルでサイバー犯罪を描いた。この『機動警察パトレイバー2 the Movie』は劇場版としては2作目となり、シリーズにいったんの区切りを付けた作品でもある。

 機動警察パトレイバーシリーズは、あくまで警察官が主役であり、戦争を舞台とはしない。『機動警察パトレイバー2 the Movie』の大きな特徴は、パトレイバーシリーズの世界観をベースに、東京を舞台にするという前提の中で、戦争という時間と空間の記号性を描ききったことにある。

 製作された1993年の1年前に、現実世界では国際平和協力法(PKO法と通称される)が成立した。この時期は、1991年の湾岸戦争に対して日本がまったく人的貢献をできなかったことを踏まえ、「国際貢献」に積極的に取り組むべきという議論が高まった時期で、1992年9月に、自衛隊の施設大隊が初めて国連PKOとして海外に派遣された。派遣先は東南アジアのカンボジアである。

■自衛隊基地からの不審な機体発進で社会不安が高まる

 『機動警察パトレイバー2 the Movie』は、カンボジアを連想させる「東南アジア某国」で、国連PKOに派遣された自衛隊のレイバー部隊が現地武装勢力の攻撃を受ける衝撃的な場面から始まる。そして、自衛隊派遣部隊は、厳格な武器使用基準に縛られているために、現に攻撃を受けているにもかかわらず、「現在カナダ隊がそちらへ急行中」「交戦は許可できない、全力で回避せよ」との命令を受け、ほぼ一方的に攻撃を受けて壊滅する。

 物語が始まるのはそれから3年後。まず横浜のベイブリッジで爆発が起こる。それは、正体不明の戦闘機からのミサイル攻撃によるものだった。さらに、航空自衛隊の防空管制システムが、三沢基地から無許可で発進した自衛隊機(「ワイバーン」というコールサイン)の機影を捉える。

 航空自衛隊の防空司令は、百里基地と小松基地からの戦闘機をスクランブルのために発進させるが、防空管制システムに百里基地から発進した機体が撃墜されたと表示されたため、小松基地からの機体に「ワイバーン」の撃墜命令を下す。

 結果的には、三沢基地からの「ワイバーン」として表示されたレーダー探知は防空システムがハッキングされたために表示されたものだと判明するが、社会の不安は高まっていく。



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