キーウ(CNN) トランプ米大統領の就任演説で最も顕著だったのは、ウクライナについての言及がなかったことだ。しかしその数時間後、トランプ氏は特有の気楽でまとまりのない話し方で、ウクライナ戦争に対する自身の姿勢を明らかにした。そしてそれは、予想以上にロシアに対して厳しいものだった。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し、ロシアのプーチン大統領についてこう語った。「彼は取引をすべきだ。取引をしないことで彼はロシアを破壊していると思う」
トランプ氏はこれまでになく率直に、戦争がロシアにもたらした経済的損害に焦点を当てた。「ロシアは大きな問題を抱えることになると思う。彼らの経済を見てほしい。ロシアのインフレ率に注目すべきだ」と述べ、10%に近づいている物価上昇率を指摘した。「私は彼(プーチン氏)とうまくやっていた。彼が取引をしたいと望んでいることを願う」
さらにトランプ氏は、戦争でのロシアの死傷者数にも漠然と言及した。西側当局の推定ではロシア兵70万人が死傷している。
トランプ氏は「彼は面白くないだろう」と述べた。「彼はうまくいっていない。つまり粘り続けているが、それは彼を良い印象に見せていない。彼は戦争を終わらせたほうがいいだろう」
トランプ氏はプーチン氏と会談する意向を示している。その詳細は調整中で、「非常に近い将来になるかもしれない」という。同氏は「ウクライナとロシアの戦争は決して始まるべきではなかった」とも述べた。就任後24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると約束したことを指摘されると、冗談交じりに「まだあと半日残っている。どうなるか見てみよう。我々はこれを終わらせたいのだ」と語った。
トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領が同氏に「取引をしたい」と語ったと述べた。これは、ウクライナが受け入れ可能で持続可能な形で戦争を終わらせる外交的解決策を模索しているという最近の同国の発言を反映している。トランプ氏は「ゼレンスキー氏は取引を望んでいる」と述べる一方で、「プーチン氏が望んでいるかはわからない。彼が望んでいない可能性もある。わからない」と語った。
ゼレンスキー氏はトランプ氏の就任を歓迎し、同氏を「強い人物」と呼び、「ウクライナ国民は米国民と協力して和平、真の和平を実現する準備ができている。この機会をつかむべきだ」と述べた。
今回の発言は、トランプ氏がこれまでにプーチン氏について言及した中で最も批判的だった。同氏がロシア経済の失政や恐るべき死傷者数に焦点を当てたことは、ロシアが時間的なプレッシャーにさらされていることをホワイトハウスが認識しており、それを利用しようとしていることを示唆している。
トランプ氏と副大統領のJ・D・バンス氏は、大統領選の選挙活動を通じて、ウクライナ戦争への米国の継続的な関与に懐疑的な姿勢を示しており、ウクライナは領土を失ったとしてもロシアとの休戦を受け入れるべきだと頻繁に示唆していた。
トランプ氏がプーチン氏との会談を希望していると発言したことは、トランプ氏が人間関係を生かした「取引手法」で外交的な経路を切り開けるかもしれないと考えていることを示している。
ウクライナにとって安心できる点として、トランプ氏がウクライナ支援に言及した際、米国の支援を停止することよりも、北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国がより多く負担する必要性を強調していたことが挙げられる。トランプ氏は、記者団とのやりとりをNATOの欧州加盟国を批判する言葉で始め、各国は国内総生産(GDP)の5%を防衛費に支出する必要があると主張した。これは多くの国にとってほぼ倍増にあたる。
トランプ氏は、ウクライナ支援について米国が欧州よりも2000億ドル(約30兆円)多く資金を拠出していると指摘し、「ばかげている」と語った。「なぜなら、彼らにとってはるかに影響が大きい。我々は海を隔てているのに」
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本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。