イスラム組織と対立し、四面楚歌状態のイスラエルは本当に「悪」なのか。元外務省主任分析官の佐藤優さんは「イスラム過激派組織・ハマスによるイスラエルへの越境攻撃について、中東の専門家でない国際政治学者は、『強者に対する弱者の抵抗運動』とハマスを擁護しているが、この紛争は、双方の内在的論理を踏まえて冷静に分析するべきだ」という――。
※本稿は、佐藤優『いまと未来を読み解く!新 地政学入門』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■「第三次世界大戦前夜」と呼べる現状
冷戦終結から30年以上経過した現在、世界情勢は新たなフェーズに入っています。
それは「第三次世界大戦前夜」とも呼べる状況です。その引き金になる可能性が高いのがガザ紛争です。
2023年10月、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム過激派組織ハマスがイスラエルを襲撃したことに端を発するガザ紛争において、イスラエルは現在もハマスの掃討を行っています。さらに、イスラエルは隣国レバノン国境付近で、ヒズボラと本格的な戦闘を展開するようになり、イエメン北部を拠点とするフーシ派はイスラエルへの攻撃を行っています。
ハマスとヒズボラ、フーシ派の黒幕はイランです。
イスラエルがこのまま反イスラエル陣営に囲まれ窮地に陥ることになれば、イスラエルとイランとの間で核戦争が起き、それにより第三次世界大戦に発展する可能性があります※。
※イスラエルが核兵器を持っているのは公然の秘密であり、イランにも核兵器保有の疑惑があります
■「イスラエルと全面戦争は避けたい」というイランの意向
2024年11月、イスラエルとイスラム過激派組織ヒズボラとの戦闘を巡り、イスラエル・レバノン両政府がアメリカとフランスの仲介により、停戦に合意しました。この停戦合意を疑問視する声も多いですが、多少の小競り合いがあっても、ヒズボラは基本的に停戦に従わざるをえないと予想されます。今回の停戦合意には、イスラエルとの全面戦争を避けたい、ヒズボラの後ろ盾であるイランの意向が強く働いているからです(詳しくは後述します)。