今、最も熾烈を極めている『高額療養費』見直しの問題。政府は2025年8月から自己負担額の上限を段階的に引き上げる方針ですが、「国家的殺人だ」など反対の声も多くあがっています。政府が主張する“長瀬効果”とは?当事者の本音とは?元経産官僚・岸博幸氏の解説です。
■100万円の治療費が実質約9万円に…患者の負担軽減する『高額療養費制度』『多数回該当』とは?
『高額療養費制度』とは、医療費が高額となった場合に自己負担額に上限を設け、患者の負担を軽減する“セーフティーネット”です。
Aさん(40代・年収600万円)を例にすると、1か月に医療費が100万円かかった場合の窓口負担は30万円ですが、現在の制度では、21万2570円が高額療養費制度で払い戻され、実質的な自己負担額は8万7430円となります(年収によって月額上限は変動あり)。
また、『多数回該当』という制度もあり、自己負担限度額を超える月が直近12か月以内に3回以上あったとき、4回目からさらなる負担軽減を受けられます。例えば、自己負担が月8万7430円なら、4回目以降は月4万4400円となる仕組みです。
■政府『高額療養費』見直し決定 実質負担約9万円が、2年後には約12万円へ
一方で、高齢化や高額な薬などで高額療養費の支給総額が増え、2012年度~2021年度の10年間で6900億円も増えました。これにより働く世代の保険料が増えているので、政府は「働く世代の負担軽減のため」、そして「少子化対策財源にするため」、高額療養費の上限を引き上げると決定。
患者団体は“上限引き上げ”の「一時凍結」を求めましたが、2025年2月20日に自民党・厚生労働部会は、“多数回該当に限り”負担増を取りやめる修正については了承しました。
Aさん(40代・年収600万円)の場合、月8万7430円の上限額が段階的に上がっていき、現在と2027年8月以降を比べると、一か月に約3万円アップすることになります。当初の案だと、『多数回該当』についても徐々に引き上げられる予定でしたが、こちらは取りやめが決まっています。
■「今回の改正は乱暴すぎる」手取り450万円なら年間40万円負担増
Q.『高額療養費制度』は、アメリカにはないですか?
(デーブ・スペクター氏)
「アメリカでは医療費がとんでもない額になるので、インターネットで自己診断して、ちゃんとした治療をしない人もいます。日本の医療制度は高い評価があるのに、なぜこんなことをするのか。『そんなに財源がないんだったら、議員の数をまず減らして』と言いたくなりますよね。ただ、今回の対象はズバリ有権者ですので、それでもここを削減するということは、よほど逼迫しているとも言えるのかなと思います」