【シンガポール=森浩】カンボジアで34年にわたり実権を握り、独裁色を深める親中派のフン・セン首相が、野党など反体制派への弾圧を強めている。政敵であるサム・レンシー氏の帰国を認めず、野党支持者らを次々と逮捕。国内で対立が一段と深刻化している。
「カンボジア政府は中国が見守る中で、危険な火遊びに手を出している」
フン・セン氏にとり、最大の政敵とされるサム・レンシー氏は12日、滞在先のマレーシアで記者会見し、フン・セン政権を批判した。「危険な火遊び」とは反体制派への弾圧を指す。
サム・レンシー氏は複数の罪で有罪判決を受けたが、2015年から海外逃亡を続けている。今年8月に帰国の意思を表明し、今月9日にフランスからマレーシアのクアラルンプールに到着。帰国を模索しつつマレーシアの国会議員らに支持を呼びかけている。
カンボジア政府は、サム・レンシー氏が入国しようとした場合、「即刻拘束する」と警告。反体制派の結集を警戒し、これまでに関係者ら約50人を逮捕した。
フン・セン政権は、反体制派の主張を続けた英字紙を発行停止に追い込み、17年9月には支持を拡大していた野党、救国党党首のケム・ソカ氏を逮捕。その後、最高裁が救国党に解散命令を出し、18年7月の下院選で与党、人民党は125の全議席を独占した。
フン・セン政権は欧州連合(EU)がカンボジアへの経済制裁を検討していることなどから、救国党のケム・ソカ氏の自宅軟禁措置を解除する決定を10日に下した。ただ、政治活動や海外渡航は制限される見通しで、政権批判は当分、おさまりそうもない。
強権的な政策に野党陣営は反発を強めており、その矛先は政権と蜜月の中国にも向かう。中国からカンボジアへの投資認可額(1994~2017年)は約126億ドル(約1兆3800億円)に達した。サム・レンシー氏はマレーシア地元メディアの取材に、「中国はカンボジアを植民地に変える」と批判している。
中国との距離感をはかる東南アジア諸国連合(ASEAN)は内政不干渉の立場から、静観の構えだ。
フン・セン氏は向こう10年は続投する意向を示しており、その後は自らの息子に権力を委譲する考えとされる。こうした動きから、「国内の反体制派への締め付けは、今後もさらに強まるだろう」(外交筋)との見方が広がっている。