現代社会において、SNSのアルゴリズムによって情報が選別され、私たちの視野は狭まりがちです。まるで温室育ちの植物のように、多様な刺激に乏しい環境で私たちは生きていると言えるかもしれません。そんな閉塞感を打破し、創造性を刺激する空間とはどのようなものでしょうか?評論家の宇野常寛氏の著書『庭の話』(講談社)を手がかりに、文芸評論家の三宅香帆氏との対談を元に、「庭」という概念を通して、現代社会における偶然性と創造性の関係を探ります。
TikTokを超える、実空間のレコメンド力
宇野氏は、「庭プロジェクト」での研究活動を通して、“walkable city”(歩きやすい街)の重要性を説いています。それは単に物理的な移動のしやすさだけでなく、実空間での「偶然の出会い」を促進する仕組みを指します。TikTokのようなプラットフォームは、アルゴリズムによってユーザーの好みに合わせたコンテンツを提示し、偶然の出会いを演出しています。しかし、それはあくまでシステムに制御された範囲内での出来事です。真の偶然性、そしてそこから生まれる創造性を刺激するには、実空間のレコメンド力を高める必要があるのです。
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「ついで」が生み出す、ポジティブな衝撃
宇野氏は、実空間における偶然の出会いを最大化するものとして「道」を挙げます。私たちは、食事や仕事など、目的を持って移動する際に「ついで」に様々なものに触れます。道端の花、街の風景、行き交う人々…。これらの「ついで」の出会いは、私たちの無防備な心にポジティブな刺激を与え、創造性の源泉となるのです。都市計画の専門家、山田太郎氏(仮名)も「都市デザインにおいて、歩行者の動線を意識し、多様な刺激に満ちた空間を創出することは非常に重要です」と述べています。
無意識に心を揺さぶる、圧倒的な存在感
では、どのようにすれば「ついで」の出会いを効果的に演出できるのでしょうか?宇野氏は、「衝撃的な存在感」を持つものを配置することの重要性を指摘します。例えば、初デートの待ち合わせで緊張している時、道端の花に心を奪われることはありません。しかし、もしそこに圧倒的な存在感を持つ何かがあれば、緊張で張り詰めた心も揺さぶられるでしょう。それは、美しい芸術作品かもしれませんし、奇妙なオブジェかもしれません。重要なのは、無意識のうちに私たちの心を掴むほどの力を持つものを配置することです。
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偶然の出会いをデザインする
「庭」とは、単に植物を植えた空間ではなく、偶然の出会いをデザインする場所です。それは私たちの心を解き放ち、創造性を刺激する空間です。都市計画、建築、ランドスケープデザインなど、様々な分野において、「庭」という概念を取り入れることで、より豊かで創造的な社会を築くことができるでしょう。日常生活の中に、どれだけ「ついで」の出会いを散りばめられるか。それは、私たち自身の創造性をも豊かにする鍵となるはずです。