プロ野球を現地で観戦すると、若い女性の売り子からビールを買うサラリーマンをよく目にする。特に夏の暑い日は、売り子から買うビールを楽しみに球場に行く人も多いのではないだろうか。
過去に東京ドームを中心に約3年ほど売り子として働いていたという佐々木静香さん(仮名)。1日で最高300杯を売ったことがある“売れっ子の売り子”だった彼女に、以前「1杯あたりのインセンティブ」など、売り子の裏事情について語ってもらった。
プロ野球の売り子は女性がほとんど。SNSでは、ビールの売り子のバイトをしている若いタレントの発信も目立つが、実はそのかわいい笑顔の裏に隠された「女同士の戦い」があるという。今回は、野球観戦しているファンはなかなか気づかない「売り子同士の熾烈な争い」について、佐々木さんに話を聞いた。
「どこで売るか」によって売り上げが激変
ビールの売り子の売上は、どの客席エリアを担当するかで大きく変わる。一杯あたりのインセンティブが発生する売り子にとって、担当するエリアの良し悪しは、収入を大きく左右すると言っても過言ではない。
まずは東京ドームにおいて、ビールが売りやすい客席エリアを聞いてみた。
「一番売れやすいのは基本的に外野席です。攻撃中は総立ちで売れにくい球団もありますが、お客さんの人数が多いので数を売ることができます。その次が富裕層が多いバックネット裏。ここは基本的に年間シートで売られているので、同じ人が来る確率が高く、一度顧客を掴んだら売り続けることができます」
では、担当する場所はどのように決められるのだろうか。ビール会社によって異なる可能性もあるが、佐々木さんによると「基本的には“チェッカー”が決めます」と話す。
「チェッカーとは、売り子が担当する場所を決めたり、現場で指示を出したりする人のことです。元売り子の女性が担当することもありますが、基本的には男性が担当することの方が多いと思います。働く当日に、チェッカーが売り子の実績や実力をみながら配置を考えるのですが、売り子にとっては担当する場所によって売り上げが変わるので、なんとしても良い場所を担当したいわけで……。チェッカーに気に入られようと必死な売り子もたくさんいましたよ」
そして、結果的に1日300杯売るほどの売れっ子となった佐々木さんは、売る場所についてチェッカーに要望したこともあるという。
「チェッカーに言われたこともバレない程度に自分の担当エリアをはみ出して、少しでもいい場所で売ろうとする子もいましたね。私はチェッカーに直接『その通路空いてるなら行かせてください』と、周りに遠慮せず言ったことあります。それで“何あの子?”って空気になることもあったけど、遠慮してたら食われるだけなんで、積極的に動いて売り上げを伸ばしました」