「9割未払い」が突きつけた限界
2025年4月6日未明、NEXCO中日本管内の高速道路で大規模なETCシステム障害が発生した。このトラブルは、高速道路料金の本質的な意味を問い直す契機となっている。
【画像】「えぇぇぇぇ!」これが35年前の「東京料金所」です!画像で見る(計10枚)
ETCでの決済が不能となり、料金所のゲートは緊急的に開放された。多くのドライバーがそのまま料金所を通過し、現地での支払いは行われなかった。これに対し、NEXCO中日本は後日払いをネット経由で求めている。
しかし、その回収状況は芳しくない。9割以上のドライバーが後日払いに応じていないのが実情だ。事業者側の障害で支払い不能になったのに、
「後から料金を請求するのは筋が通らない」
という意見が日に日に強まっている。それでもなお、NEXCO中日本が料金徴収を断念しないのはなぜか。その根拠を改めて問う必要がある。
危機管理検討委員会の法的整理
まず考えるべきは、私たちが高速道路に何を求めているかという点だ。
例えば、一般道のバイパスでは2時間かかる区間を、高速道路なら1時間で走行できると仮定する。しかし、渋滞によって所要時間が同じ2時間に延びた場合、その料金は支払う価値があるのか。高速料金は本当に「時間の短縮」に対して支払われているのかが問われる。
NEXCO中日本が後日払いを求めている根拠は、まさにそこにある。4月22日に開催された「広域的なETCシステム障害発生時の危機管理検討委員会」の第2回会合では、その法的整理が委員会資料の14ページに記されていた。以下にその該当部分を引用する。
1.供用約款の位置付けについて
・お客さまが高速道路をご利用される上での前提や条件を会社が定めたものであり、ご利用を開始された時点でその内容に同意(お客さまとの間で契約関係が成立)したこととなる。
2.通行料金について
・道路整備特別措置法及び供用約款に基づき、高速道路の利用の対価として、お客さまには通行料金をお支払いいただいている。
・高速道路の通行料金には所要時間の保証という性格を含まないため、払い戻しや支払い免除・減額は行っていない。
3.瑕疵について
・その態様・程度によっては裁判においてETCシステム障害も高速道路の設置・管理の瑕疵と認定される場合もあり得ると考える。
・本件が瑕疵に該当するか否かについても、事案に応じて個別に対応するものと考える。
4.損害賠償責任について
・高速道路の所要時間は、お客さま起因、会社起因、いずれにも起因しないものと様々な要因に左右されることから、供用約款に基づき、渋滞による遅延により生じる損失は、瑕疵があるかないかに拘らず、当社として補償する責任を負わないと考える。
・渋滞における事故などの事象についても、事案に応じて個別に対応するものと考える。
5.不正通行について
・会社の措置により料金所を通過して後日支払いとしたものであることから、不正通行には当たらない。
(広域的なETCシステム障害発生に対する当面の対策(案)-NEXCO中日本)
この危機管理検討委員会には、NEXCO中日本に加え、NEXCO東日本と西日本も参画している。あらかじめ明記しておきたい。注目すべきは、委員会資料のふたつめの項目だ。
「高速道路の利用の対価として、お客さまには通行料金をお支払いいただいている」
と明記されている。この記述は、高速料金が通行そのものへの対価であることを意味する。したがって、遅延が発生しても料金の減額や返金措置は行わないという立場だ。さらに3項目目を見ると、委員会は今回のETC障害がNEXCO中日本の瑕疵によるものかどうかを判断できていない。瑕疵ではないと断言はしていないが、
「その態様・程度によっては裁判においてETCシステム障害も高速道路の設置・管理の瑕疵と認定される場合もあり得ると考える」
との記載がある。極めて慎重で受け身な姿勢がにじむ表現である。