【05月10日 KOREA WAVE】北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記が初めて「中間界線海域」という表現を用いたことで、南北間の海上境界線を一方的に再定義しようとする動きではないかとの懸念が高まっている。
キム総書記は4月25日、南浦(ナンポ)造船所で開かれた5000トン級の新型多目的駆逐艦「チェ・ヒョン号」の進水式に出席した際、「多目的駆逐艦建造計画を年次で実現し、沿岸防御海域および中間界線海域で平時の作戦運用をする」と発言した。
この「中間界線海域」とは何を意味するのか、どこを指すのか、北朝鮮は一切、具体的な説明をしておらず、軍事的・外交的な「戦略的曖昧さ」を維持しているとの見方も出ている。
この用語が初めて登場した背景には、北朝鮮が2023年の朝鮮労働党中央委員会総会と2024年の最高人民会議で、南北関係を「二つの国家関係」と再定義し、「領土・領海・領空」の新たな設定を示唆してきた流れがある。
特に海上境界をめぐる摩擦は、日本海よりも水域が狭い黄海で頻発しており、1953年に国連軍司令官が一方的に設定した「北方限界線(NLL)」を北朝鮮はこれまで一貫して認めてこなかった。
2004年には、NLLよりさらに南側に「警備界線」を一方的に設定し、これを正当な境界線と主張。より広い海域を確保し、水産資源の掌握を狙ったものとされている。
今回言及された「中間界線海域」も、こうした警備界線と同様の位置づけであり、南北が「分断国家」ではなく「別個の主権国家」という前提のもと、新たな“国境線”を主張しようとしている可能性がある。
特にキム総書記は、昨年から「NLL付近の海域を“国境”と表現する」発言を繰り返しており、今年2月には対艦ミサイルの試射を指導する場で、「延坪島と白翎島の北側国境線(northern limit line)」や「海上国境線(the maritime border)」という表現を用いた。
こうした動きに対し、北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は「北朝鮮はNLL無力化戦略の一環として、いつでも武力挑発に踏み切る可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
一方で、北朝鮮のメディアが英語表記で「Intermediate waters(中間水域)」と表現している点から、明確な新境界線というより、広義的な軍事行動範囲や曖昧な海域概念として用いている可能性もある。
北朝鮮が来年初頭に新型駆逐艦の運用を開始するとしており、その時点で「中間界線海域」の具体的位置が明かされる可能性もある。
また、南北「二国家体制」に基づく改定社会主義憲法が公開されれば、新たな海上境界の定義が盛り込まれているかもしれない。
(c)KOREA WAVE/AFPBB News
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