書店で、広い面積を占めるのが「自己啓発本」のコーナーだ。出版不況でも、堅調な売り上げをみせる。日本発の自己啓発本「嫌われる勇気」が海外でも人気を博し、今春、世界累計1350万部を突破した。人気の背景を探った。(金来ひろみ)
「人生を主体的に」教わる
4月下旬、東京都千代田区の「丸善丸の内本店」を訪れると、青い表紙の単行本が、目立つ場所に並べられていた。
「自己啓発の父」と呼ばれるオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラー(1870~1937年)の心理学を解説した本で、2013年12月に発売された。
出版元のダイヤモンド社によると今年4月現在、国内発行部数は323万部に上る。
書店の担当者は、「自己啓発本は、昇進して部下を持つようになった人など、新生活の指針がほしいときに手に取られることが多い。ただ、10年以上売れ続けることは珍しい」と話す。
この本はフロイト、ユングと並び「心理学の3大巨頭」と呼ばれるアドラーの思想について書かれており、青年と哲人が議論を交わす対話形式で進む。「すべての悩みは対人関係の悩みである」「自由とは他者から嫌われることである」「他者の期待を満たすために生きているのではない」といったアドラーの考えに、青年がことごとく反発するというストーリーだ。
何度も読み返しているという東京都内の会社員の女性(41)は、職場の人間関係に疲れたときにこの本を読み、「他人の評価に振り回されず、自分の人生を主体的に生きなさいと教わった」と話す。
常識覆される
「嫌われる勇気」はなぜ読み続けられているのか。
編集者の柿内芳文さんは、斬新な読書体験が理由として考えられるという。「登場人物の青年が抱く疑問は、読者の疑問そのもの。圧倒的な没入感が本書にはある」と分析する。
共著者で哲学者の岸見一郎さんは、「現状に満足していない人に対し、本書が『じゃあ、どうするのか』という指針を与えた。自分の考えていることは間違っていないと背中を押したのではないか」と考察する。