NHK紅白歌合戦、STARTO社タレント復帰報道に渦巻く波紋:視聴率とメディア倫理の狭間で

10月20日、サンケイスポーツが報じた『NHK紅白歌合戦』へのSTARTO ENTERTAINMENT所属アーティストの3年ぶり出場予定は、エンターテイメント界に大きな注目を集めています。長年、国民的番組として親しまれてきた紅白の舞台は、多くのアーティストにとって憧れの場所である一方、今回の復帰報道はファンや世間から複雑な感情を引き起こしています。SNS上では「結局元ジャニーズに頼るのか」「NHKの過去の対応を忘れない」といった批判の声も上がっており、その背景には深い問題が横たわっています。

有吉弘行が司会を務める『NHK紅白歌合戦』の様子有吉弘行が司会を務める『NHK紅白歌合戦』の様子

旧ジャニーズ問題とNHKの過去の厳しい対応

今回のSTARTO社タレントの紅白復帰がこれほどまでに議論を呼ぶのは、旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)が抱えるジャニー喜多川氏による性加害問題が大きく影響しています。2023年3月にBBCがドキュメンタリー番組『Predator: The Secret Scandal of J-Pop』を放送して以降、この問題は国内外で大きく取り上げられ、社会的な関心事となりました。

NHKも2023年4月には『ニュース7』や『クローズアップ現代』といった主要報道番組で被害者の証言を放送し、同事務所の責任を厳しく追及する姿勢を示していました。同年9月には、旧ジャニーズ事務所との新規契約を一時停止する方針を発表。2023年末の紅白歌合戦では、旧ジャニーズ関連タレントの出演が全面見送りとなりました。さらに、NHKは「旧ジャニーズ所属タレントの番組出演やレギュラー起用を当面控える」とし、『ザ少年倶楽部』や『ニュージェネ!』など長年Eテレやラジオで放送されてきた人気番組も終了に追い込まれました。

旧ジャニーズ事務所のタレントが利用したと見られるリハーサル室が並ぶ廊下旧ジャニーズ事務所のタレントが利用したと見られるリハーサル室が並ぶ廊下

視聴率回復への期待と“手のひら返し”の批判

このように徹底して旧ジャニーズ事務所への厳しい姿勢を貫いてきたNHKが、わずか1年で紅白復帰へと方針を転換したことに対し、「手のひら返し」との批判が上がるのは当然と言えるでしょう。被害者への補償問題がいまだに継続中であることを考えると、世間の不信感は根強く残っています。

芸能ジャーナリストは、NHKのこの方針転換の背景には「数字が欲しい」という本音があるのではないかと指摘します。近年の『紅白歌合戦』の視聴率は30%前後を推移しており、2023年には過去最低水準を記録しました。人気グループの活動休止や、かつて番組を支えた旧ジャニーズ系グループの不在が重なり、視聴率回復を目指す上で、STARTO社タレントの集客力に再び期待が寄せられたという見方が有力です。NHK側は「事務所再編や被害者補償など一定の前進が確認された」として再検討を進めているとしていますが、視聴者の間には「都合の良い復帰劇」として映る可能性も否めません。

求められる透明性と誠実な説明

本来、『紅白歌合戦』は特定の事務所や政治的な思惑に左右されない「音楽の祭典」として公平であるべきです。一度は「排除」の方針を明確に打ち出したNHKが、今になって出演へと転じるのであれば、その理由と判断基準を視聴者に対して明確かつ誠実に説明する責任があるでしょう。これは、被害者、ファン、そして番組に出演する他のアーティストたちへの敬意を示す上でも不可欠な対応です。メディアとしての信頼性を保つためにも、一層の透明性が求められています。

結論

STARTO ENTERTAINMENT所属アーティストの『NHK紅白歌合戦』復帰報道は、旧ジャニーズ事務所の性加害問題という社会的に重いテーマと、国民的番組の視聴率という商業的な側面が複雑に絡み合った結果と言えます。NHKがこの決定に至った背景について、単なる「前進の確認」に留まらず、具体的な変化や判断基準、そして今後の倫理的立場を明確にすることで、視聴者の不信感を払拭し、公共放送としての信頼を取り戻すことができるかが問われています。


参考文献: