男性が配偶者に求めるのは「料理が上手」「美人」、女性側の要求は「年収が高い」「イケメン」などでしょう。いずれもポジティブ方向の要素ですが、逆のものも大事です。「耐えられるものが同レベル」「同じことを面倒くさいと思う」といったことです。
わが家は「掃除」が互いに苦手で、部屋が汚いのは(快適だとは感じないものの)耐えられます。ホコリがたまればペーパータオルで拭く程度です。
床には洋服が積み重なり、新聞雑誌やチラシも気付けばその辺に散らかっている。こんな状況を放置するのは良くないことと知りつつも、仕事が忙しいとつい放っておいてしまう。ゴミ出しの日に慌ててこれらをゴミ袋に投入して搬出、一時しのぎを繰り返します。
掃除機は家になく、ルンバのような自動掃除ロボもありません。そもそもモノが床に乱雑に散らかっているので、ルンバが動くことはできないでしょう。
私はずっとこのような人生を送ってきましたが、妻もこの状態が気にならないようです。かくしてわが家は常に乱雑な状態にあります。掃除をするのは互いにストレスで、イヤなことが合致したわれわれの相性は良いといえましょう。それが冒頭で述べた「ポジティブ方向ではない、逆側の感覚も大事」ということです。
例えば「趣味が合う」が結婚のきっかけだったとします。しかし、趣味は家族と一緒にいそしむ必要はありません。家族で重要なのは、日々の生活でけんかをしないこと。もしも彼女がきれい好きな人間だったら、私など毎日怒られてばかりだったはずであります。
脱いだ靴下をその辺に置き、買ってきた釣り道具やらクワガタのエサはリュックから出した後に床に放置。その上に洋服を置いて目隠ししてしまう。これに文句を言われないんですからありがたい。
そして私も彼女が同様のことをやっていても文句は申しません。「価値観が合う」というのは通常ポジティブな文脈で使われる言葉ですけれど、このようにネガティブな文脈でも言えることで、夫婦が仲良くするにあたっては非常に重要な要素だと思います。
思い返すと旅行の価値観も合います。別に観光しなくていいんです。二人とも文筆業に属するため、旅先でも毎日仕事しています。そして観光はほぼしません。1日2回の食事を楽しみにするぐらい。「せっかく旅行に来たんだから、アソコとアソコとこっちにも行こうよ〜」なんていう気持ちにまったくなりません。
アクティブに動きたい人は、夫(妻)が「ゆっくりしようよ」などと尻が重いサマを見せるといら立たしく思う。ゆったりと行動したい人は、相手が動きまくりたいタイプなら面倒だなぁと思ってしまう。
すでにGWは終わりましたが、夫婦・カップル間で嗜好(しこう)を巡る衝突は、多々発生したことでしょう。
好きな事柄よりも、苦痛に思う事柄が共通する方が人間関係はうまくいく。
あと、一つ分かったことは、モノってあんまり要りません。わが家は2DKなのですが、うち一部屋に置いた荷物は5年前に引っ越してきて以来、まったく開けていません。そろそろ全部、捨てようかと思ってます。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。
まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。
「週刊新潮」2025年5月15日号 掲載
新潮社