実質賃金が伸びない中、消費意欲が低迷する一方の日本。そんな経済を支えていたインバウンド消費にも陰りがみられる。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「訪日外国人は過去最高の3686万人に達したが、全国百貨店売上高や旅行取扱状況の数字は2025年に入り頭打ち状態だ」という――。
【図表】現金給与総額と消費者物価(生鮮除く総合指数)の上昇率
トランプ関税に振り回される日本経済。国会では、7月の参議院選挙もあって野党が消費税減税を強く主張していますが、与党は、今のところは減税に慎重な姿勢を示しています。
しかし、現状の日本経済は足腰がかなり弱っています。物価を考慮した「実質賃金」はマイナスの状況で、そのせいでGDPの50%強を支える家計の支出も停滞気味です。
今回はトランプ関税で見落とされがちな現状の日本経済、とくに賃金と消費の状況を見ていきましょう。
■上がらない「実質賃金」
図表1は、現金給与総額と消費者物価(生鮮除く総合指数)の上昇率です。
現金給与総額とは、基本給等の所定内賃金、残業などの所定外賃金、そして賞与を足した、ひとり当たりの賃金を言います。
表にあるように、現金給与総額は、プラスの状態が続いています。実は2022年1月から39カ月連続で前年同月に比べて上昇しています。今年3月も2.1%の上昇で、現金給与総額は30万8572円です。
ただし、この数字は「名目」です。経済学で名目という場合には、「実額」を表します。つまりインフレを考慮していない数字です(インフレを考慮した数字を「実質」といいます)。
そこで消費者物価の数字を見てみます。表にあるように昨年12月から今年3月までは3%を超える消費者物価の上昇が続いています。昨年より物価上昇率が高いことに注意が必要です。
もう一度、現金給与総額の数字を注意深く見てみると、昨年6、7月そして11月、12月の数字が高くなっています。これは賞与の影響が大きいからです。そして、それらの月では、消費者物価上昇率よりも、給与の数字が大きいことが分かります。物価上昇に給与がわずかですが勝っていたのです。
しかし、今年に入った3カ月間を見ると、物価は3%以上上昇しているのに、給与の上昇率はそれ以下で、とくに1月、3月は物価の上昇率が賃金を1%以上も上回っています。「実質賃金」が大きくマイナスですから、国民の生活が苦しくなっているのです。
国民からすれば、こうしたデータは見たくないけれど、見なければいけない。現実を直視して物価高の世の中を乗り越えていかなければならない。そんな心境でしょう。