突然、親が亡くなり、葬儀代として100万円が必要になったものの現金の用意が間に合わない、ということは少なからずあります。そんななか、「父から通帳を預かっているし、そこから葬儀代を払えないか」と考える人もいるかもしれません。しかし、亡くなった人の口座からお金を引き出しても問題はないのでしょうか?
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結論から言えば、相続手続きが終わる前でも、一定の条件を満たせば故人の口座からお金を引き出すことは可能です。2019年の法改正で導入された「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」により、限度額の範囲内であれば葬儀代に充てるための払い出しが認められています。とは言え、制度を利用するには事前にしっかり確認しておくことが大切です。
本記事では、遺産分割前でも預金を引き出せる「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」について、その内容と注意点を解説します。
相続前に故人の口座から預金を引き出すリスク
「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を解説する前に、まずは相続前に故人の口座から勝手に現金を引き出すことのリスクについて説明します。
金融機関では、預金者が亡くなったことを確認した時点で、口座を凍結するのが原則です。そのため、金融機関が死亡を認識するまでの間は、キャッシュカードや通帳を使って預金を引き出すこと自体は可能ではあります。ただし、この期間に出金を行うと、以下のようなトラブルに発展する可能性があるため、注意が必要です。
■親族間でトラブルが起こる可能性がある
他の相続人から、無断で預金を引き出す行為が「不正行為」と見なされることがあります。引き出したお金は相続財産として扱われるため、後に相続人間で争いが起こりやすくなります。このような行為は、親族間の信頼関係に亀裂を生じさせる可能性があるため注意が必要です。
■相続放棄ができなくなる可能性がある
相続では、故人の財産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継します。借金が多額である場合などは、家庭裁判所に申述すれば相続放棄が可能です。
しかし、無断で預金を引き出すことは「単純承認」と見なされます。そのため、たとえ多額の借金が後から判明したとしても、相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。