日産自動車が計画するリストラ策の概要が固まった。今後の焦点は成長戦略に移る。1台当たり利益を最大化するには、米国市場を中心とした製品ポートフォリオと工場稼働率の向上が欠かせず、協業戦略やサプライチェーン(供給網)の再構築に迫られる。世界7工場の削減では国内工場も含み、2027年度までに生産能力は24年度比100万台減の250万台に引き下げ、中国を除く工場稼働率を24年度の70%から100%に引き上げる方針。世界で2万人を削減して国内で早期退職の募集も検討する。生産再編で収益性を高め、経営不振からの早期脱却につなげる。
日産は再建策で主要市場のコア領域に集中し、その他はパートナーを活用する戦略に再定義した。メリハリを付けて販売台数と収益を重視しつつ、商品構成を補完する。
世界の主要拠点では、英サンダーランド工場はスポーツ多目的車(SUV)「キャシュカイ」や電気自動車(EV)「リーフ」の新型車を生産する。英国は米国との関税交渉で自動車関税の引き下げに合意しており、輸出拠点としての位置付けは増しそうだ。エジプト拠点も中東・アフリカ地域の要衝として存在感が高まる。近年投資を積み増しており、セミノックダウン(SKD)生産の拠点としても魅力的だ。
仏ルノーや三菱自動車とのアライアンスもカギとなる。欧州ではルノーから小型車「マイクラ」のEVモデルを調達し、三菱自とはプラグインハイブリッド車(PHV)の供給を受ける一方で、新型リーフをベースとした北米市場向け新型EVや、フィリピン向けの新型バン、豪州向けのピックアップトラックで協業する。
経営統合は破談となったが、ホンダとはソフトウエア定義車両(SDV)や電動駆動装置「eアクスル」など知能化・電動化の検討を引き続き進めるとともに、関税など事業環境の変化を踏まえて検討内容に米国での協業も加えた。車種の相互補完や米国生産拠点の活用なども視野に入れる。「積極的に米国市場で協業の可能性を探る」(イバン・エスピノーサ社長)とする。
日産はカルロス・ゴーン氏が進めた拡大戦略の下で、生産拠点が肥大化し過剰な生産能力が経営の課題だった。国内でも約120万台の生産能力に対し24年度の生産台数は約64万台。今回の世界7工場削減では追浜工場(神奈川県横須賀市)と子会社日産車体の湘南工場(同県平塚市)の国内2工場も対象に浮上した。国内主力工場の閉鎖は01年の村山工場(東京都武蔵村山市)以来。国内で早期退職の募集も検討する。
2工場ともに生産車種を減らしており、追浜工場は10年に同社で初めて生産を始めたリーフの生産を終了。新型リーフは栃木工場(栃木県上三川町)に生産移管する。湘南工場も商用バン「AD」の生産を25年11月に終了予定だ。
海外では公表済みのアルゼンチン生産撤退やインド工場売却に加え、新たにメキシコや南アフリカの工場が削減対象に挙がる。いずれも稼働率が低迷し余剰感が高まっている。
工場閉鎖は雇用や地域経済への影響が大きく反発も予想される。日産は「臆測に基づくもので当社から発表した情報ではない」とのコメントを公表。今後、労働組合をはじめ関係機関と慎重に協議を続ける構えだ。ステークホルダーの理解が、再建策を確実に進める上でも重要となる。