「ちょっとお金が足りない」という時に、クレジットカードのキャッシングやカードローンといった形でお金を借りることがあります。借りた時には少額と思っていても、回数を重ねたり利息がついたりして気づけば返済総額が大きくなっていた……というケースは珍しくありません。定年まであと7年、子どもはまだ3歳という52歳男性が抱えていた借金は、気付けば400万円近く。思いがけない家計の危機に、妻が下した決断は……?(家計再生コンサルタント 横山光昭)
● クレジットカードの借金、軽く見ないで
インフレの影響か、あるいは給与が上がらない影響か。最近、クレジットカードのキャッシングやカードローンの返済方法についての相談が増えてきました。当初は少額だったのに気がつけば膨らんでいたカード払いの借金は、家計のやりくりだけで返済しようとしても、金額が大きくなりすぎると難しいのが現実です。そのため、債務整理※も視野に入れた対応が望ましいケースも増えています。
キャッシュレス社会では、信用情報に傷が付き、クレジットカードが使えなくなることへの恐れも大きいものです。多くの方が何とか自力で返済したいと考えますが、無理な返済で生活が立ち行かなくなったり、将来への備えができなくなったりするようであれば、債務整理という選択肢も大切です。債権者には申し訳ない気持ちはありますが、無理な返済を続けることで、ご自身だけでなく、ご家族にまで苦しい思いをさせてしまう可能性もあります。
※債権整理…借金がふくらんで返せなくなってしまったとき、任意整理(返済額を下げる)、自己破産(債務の全額免除を認めてもらう)、個人再生(債務を大幅に減額してもらって、数年間の分割で支払い・返済する)などしてもらうこと。ただし、信用情報機関のブラックリストに登録されるなどのデメリットがある。
● 定年まであと7年。子どもは小さく、借金もあって将来が不安
「このまま借金がある状況で、将来を見通すことができるのでしょうか?」
そう言って相談に訪れたのは、会社員のMさん(52歳)です。Mさんは4年前に「授かり婚」をし、会社員の妻(46歳)と3歳の娘さんの3人家族で暮らしています。
まもなく53歳を迎えるMさんは、勤務先の定年が60歳であることから焦りを感じていました。残り7年の就労期間で借金を完済し、さらに老後資金も準備できるのか……その不安が相談の背景にありました。
Mさんの借金は、本人名義で約300万円。さらに「自分で返済する」という約束で、妻の未使用クレジットカード2枚からも約90万円をキャッシングしており、合計で400万円近い借金を抱えていました。
相談には妻も一緒に来ていたので、ある程度借金についても共有していると思っていましたが、驚くべきことに彼女は夫の借金の総額を把握していませんでした。妻は産休・育休中で収入が減少したため、夫がキャッシングをしたことは知っていましたが、すでに返済済みだと思っていたのです。自分名義のカードが使われていることも知っていましたが、その残高が90万円にものぼり、返済されていないという事実を初めて知って、大きなショックを受けていました。
● 夫の借金に気付かない〜別財布家計の落とし穴
このような状況になった背景には、夫婦の家計管理方法があります。Mさん夫婦は完全な別財布制で、家賃や育児費用などの共通経費は折半、個人的な支出や貯蓄は各自で管理していました。妻は最近、娘さんが3歳児クラスになり保育料無償化の対象となったため「共有家計が少し楽になった」と喜んでいたところでした。そこへ突然、債務整理の話が出てきたので、状況を理解できずにいたのです。
借金の金額と家計状況を検討した結果、夫婦ともに「法律家に依頼して債務整理をしたほうが家計再建の近道だ」と判断しました。無理な返済を続けると、生活が困窮するだけでなく、将来必要なお金も貯められなくなるからです。
この話を聞いたMさんは、「申し訳ない」と半ば泣きそうな声で妻に謝罪しました。妻も自分が債務整理の対象になることを知り、大きな衝撃を受けていました。