「自分たちに不本意な形で停戦させられるのではないか」。ロシアの侵攻を受けるウクライナで懸念が高まる中、カギを握る米国の政策や世論を少しでもウクライナ寄りにしようと奮闘する人たちがいる。
ウクライナ出身のオクサナ・バルチュクさん(40)もその一人だ。かつて「祖国を捨てた」という後ろめたさから支援団体に入り、現在は首都ワシントンを中心に活動を続けている。
1月に就任したトランプ米大統領は、ウクライナへの無条件の支援継続には懐疑的で、米国の世論も支援の是非を巡り分断されている。ウクライナは打開策を見いだせていない。それでも「やれることはまだまだある」。もう一つの戦場で奔走する人々の姿を追った。
「祖国捨てた」罪悪感 ロビイストの女性
寒空の下、時折暖かい風が吹き付ける3月中旬のワシントン。バルチュクさんは与党・共和党の連邦上院議員の事務所にいた。
「ウクライナ支援の重要性を理解してもらえたと思う」。議員スタッフとの会合後、安堵(あんど)したような表情を浮かべた。
バルチュクさんは、米国とウクライナに拠点を構える「ラゾム・フォー・ウクライナ」のスタッフだ。2014年に発足したウクライナへの医療支援などを行う人道援助団体で、「ラゾム」はウクライナ語で「一緒に」という意味がある。ラゾムは22年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、米国各界に働きかける「ロビー活動」も重視している。バルチュクさんは3人いるそのロビイストの一人だ。
バルチュクさんは大学生の時に、教員から勧められて初めて米国に来た。「生きていく上で、ウクライナよりもはるかに多くのチャンスがある社会だと感じた」。米国に移住し、教育関連の仕事に就いた。
だが、心のどこかに「祖国を捨てた」との思いが残っていた。そんな中、22年にロシアによる侵攻が始まった。「苦境のウクライナのために力になりたい」と仕事を辞め、ウクライナ支援の団体に入った。
昨年にはラゾムに移り、ロビイストとして活動する。「若くして母国を離れたという後ろめたさがあった。その思いがあるからこそ、今頑張ることができる」と語る。