ザ・フォーク・クルセダーズの元メンバーであるきたやまおさむ氏は現在、精神科医として活動している。ここでは、「文藝春秋」2025年4月号掲載のインタビュー 「むなしさにも付き合い方がある」 を一部抜粋して紹介する。
【画像】「ザ・フォーク・クルセダーズ」の仲間だった加藤和彦氏は62歳で自死した
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醜さを露呈できない
私たちは本来、ケガや病気などの弱さや醜さを抱える存在であり、生まれてきた時には何も隠すことがありません。恥を知らないからです。
恥を知った瞬間、人間として醜いと思われるような類のものは隠さなければならないという抑圧が働くようになります。それらが露呈するのを恐れて、一生懸命、きれいな人間を演じるわけです。
日本の社会では、誰かがその醜さを不用意にさらけ出すと、誹謗中傷し、袋叩きにして、排除しようとします。こうして社会を常に等質性の高いものにしようとすることを「同調圧力」と呼びます。
ところが、人は年を取るにしたがって、内に秘めてきたものが緩んで溢れ出てきます。加藤和彦が口にした「ロックンローラーが60歳を超えても生きているのは格好悪い」という言葉は、老醜をさらすのが世間に許容されないという意識からのものなのでしょう。
なぜそれほどまでに同調圧力が働くのか。考察するにあたり、私は「異類婚姻説話」に着目しました。人間にとって異類である動物や怪物などが人間に姿を変えて現れ、人間と婚姻関係を結ぶ物語です。
日本にも世界にもこうした物語がたくさんあり、その国の文化や人の心のありようを強く反映して長く語り継がれています。
日本の代表的な異類婚姻説話は、『鶴の恩返し』です。木下順二が戯曲化した『夕鶴』は、以下のようなお話です。
主人公の与ひょうが矢で射られた鶴を助けた後、つうという美しい女が現れ、妻にします。つうは「機(はた)を織っているところを決してのぞかないように」と言って見事な反物を織り、反物を織るのはもうおしまいと言いますが、与ひょうは懇願したうえ、約束を破ってのぞいてしまいます。すると、自らの羽をむしって反物を織る鶴の姿がありました。かつて与ひょうが助けた鶴でした。本当の姿を見られた鶴は、羽をむしった傷ついた姿で去っていくのです。
他にも、日本の有名な異類婚姻説話には『蛇女房』『猿の婿入り』といったものがあります。
日本の説話に共通するのは、異類は人間によって絶対に排除されてしまうということです。