韓国では、最大野党「共に民主党」の李在明前代表が新大統領に就任しました。この大統領選挙は、昨年12月の「非常戒厳」を契機とした尹錫悦前大統領の罷免を受けて実施されたものです。韓国は混乱に見舞われましたが、日本国内での最大の関心事は、新政権下での日韓関係がどうなるかという点です。尹前大統領は日本に対し比較的理解ある姿勢を示していましたが、李氏は過去に日本を「敵性国家」と呼んだり、福島第一原発の処理水放出を厳しく批判したりした経緯があります。しかし、今回の選挙戦では協力的な姿勢も示しており、その真意や今後の政策が注目されています。
韓国新大統領に就任した李在明氏が演説する様子
李在明大統領とは?その背景と過去の発言
李在明大統領(60)は、貧しい家庭に生まれ、中学校へ行けず13歳から工場で働いたという異色の経歴を持ちます。大検合格を経て大学に進学し、卒業後は人権派弁護士として活動。その後、城南市長、京畿道知事を歴任しました。2022年の大統領選では尹氏に敗れています。現在は公職選挙法違反など複数の訴訟を抱えています。元在韓特命全権大使である武藤正敏氏は、李氏を「立身出世型で、貧しい人々に同情心がある」と評しつつ、「国政や外交の経験が少なく、過去の『敵性国家』発言などは自身の左派支持者向けのものであり、本音は分からない」と分析しています。一方で、今回の選挙戦で李氏が「文化交流や韓日協力の分野に対しては、積極的で開放的だ」と発言したことは注目されます。これは、大統領としての立場を意識した変化なのか、あるいは戦術的な発言なのか、今後明らかになるでしょう。
韓国政治の複雑な構図:「親日・反日」のレトリックと国民感情
韓国の政治状況について、2009年に脱北し現在は作家として活動する金柱聖氏は、「韓国では右派と左派の激しい対立があり、『親日』や『反日』は互いを攻撃するための一種のキャッチフレーズになっている」と指摘します。左派は右派を『親日』と、右派は左派を『反日』と呼び合う状況が見られるとのことです。文在寅政権下で見られた日本製品不買運動なども、こうした対立の表れと言えます。金氏は、李氏が大統領となった今、「左右の仲たがいのようなキャッチフレーズはもう使うべきではない」と述べています。
韓国国内における「親日」と「反日」の概念に関する議論を示すグラフィック
金氏の見解では、「親日・反日の問題は、今後とも韓国政治において最も重要な問題ではない」といいます。むしろ、今回の政変劇は「左右よりも、事件に対する国民の情緒の問題だった」と分析しており、朴槿恵政権の弾劾時を上回る高い投票率が、その感情の強さを示していると見ています。
日本以上に重要視される北朝鮮・中国との関係
金柱聖氏は、李在明政権にとって日本との関係以上に重要となるのが、北朝鮮との関係だと強調します。李氏は過去に北朝鮮への不正送金疑惑で裁判沙汰になったことがあり、金氏は大統領権限によってこれらの疑惑がもみ消される可能性を示唆しています。また、李氏は金大中政権時代の南北関係にも言及しており、今後北朝鮮に対して何らかの具体的な行動を示すのではないかと予測しています。しかし金氏は、北朝鮮の金正恩総書記はすでに韓国に対して見切りを付けている可能性が高いと見ており、韓国側からの歩み寄りに対して、北朝鮮がどの程度応じるかは不透明だとの厳しい見方を示しています。さらに、大国である中国との関係も、小国である韓国にとっては極めて重要であり、常に最優先で考慮されるべき課題であることも付け加えています。
李在明氏の韓国新大統領就任は、同氏の異色の経歴や過去の言動、そして国内外の複雑な政治状況の中で迎えられました。日韓関係の行方が注目される一方、韓国内では右派と左派の根深い分断が存在し、「親日」「反日」といった言葉は政治的な道具として使われる側面が強いようです。専門家の見解からは、新政権にとって日本との関係以上に、北朝鮮や中国との関係が喫緊の課題として浮上してくる可能性が示唆されています。李大統領がこれらの課題にどう向き合い、国内外の期待と懸念にどう応えていくのか、その手腕が試されることになります。