【バンコク稲田二郎】タイとカンボジアの国境地帯で、両国軍による軍事衝突があり、緊張が高まっている。銃撃戦によりカンボジア兵1人が死亡し、カンボジア軍は国境の部隊を増強。タイ政府はタイ軍から要請を受けた国境閉鎖を行っておらず、5日には「政府の弱腰」を批判するデモが首都バンコクで行われた。
衝突が起きたのはタイ東北部ウボンラチャタニ県とカンボジア北部プレアビヒア州が接する国境係争地。タイ政府の発表では、5月28日早朝、カンボジア兵が係争地に侵入したため、制止と交渉のためにタイ兵を派遣。発砲を受けて応戦した。カンボジア側は、通常の巡回中にタイ兵士が先に発砲したと主張。双方の国境司令官同士が電話で協議し、約10分で停戦命令が出されたが、交戦でカンボジア兵1人が死亡した。
カンボジアメディア「クメール・タイムズ」などによると、カンボジアのフン・マネット首相は2日、タイ側の同意の有無にかかわらず、事件を国際司法裁判所に持ち込む意向を表明。カンボジア国防省は「いかなる犠牲を払っても領土を保全する」との声明を出し、国境付近に増派している。
この動きにタイ軍は強い不満を示し、タイ政府に国境の閉鎖を提案。ただ、政府は貿易などを考慮して閉鎖に慎重な構えで、実行していない。
タイ政府は4日、両国の首相がこの問題を協議し「事態の沈静化に向けて協力することで一致した」と発表。ただ、両国間では複数の地点で国境が定まっておらず、長年の対立の火種となってきた経緯がある。
今年2月にはタイが実効支配する東北部スリン県の遺跡でカンボジア人の女性グループがカンボジア国歌を歌い、タイ軍が排除。タイ側はカンボジア軍が市民を動員しているとみている。タイ国内では政府の対応を「弱腰」と批判する声が強まっており、バンコクでは5日に首相府や国防省の前などでデモが行われた。