中国の習近平政権が、入国時のビザ(査証)免除対象国を急速に拡大している。これは、「米国第一主義」を掲げ排外的な政策を強めるトランプ米政権とは対照的な姿勢を示し、「開放的な中国」を強くアピールする狙いがある。これにより、対中投資の促進や外国人観光客の受け入れ体制整備を加速させている。
中国外務省の林剣副報道局長は記者会見で、「中国は高水準の対外開放を進める。人的往来の円滑化により、オープンな世界経済構築に尽くす」と述べ、一方的にビザを免除する国が欧州など43カ国に達したことを強調した。
コロナ禍前、中国は相互免除国を除き、日本を含む3カ国のみに短期滞在のビザなし入国を認めていた。対象国の拡大は、約3年間続いた「ゼロコロナ」政策で落ち込んだ観光収入の回復が主な目的として、2023年後半から始まった。しかし、今年1月の第2次トランプ政権発足が現実味を帯びて以降は、ソフトパワーを強化し米国に対抗するという側面がより強くなっている。
トランプ政権は5月、ハーバード大学への留学生受け入れ禁止を示唆するなど、排外主義的な傾向を強めている。今月4日にはイランやミャンマーなど12カ国からの入国を禁じると発表した。これに対し、中国は今月、米国の「裏庭」とも称される南米の5カ国にビザ免除を適用。また、東南アジア11カ国には、5年間有効で一度に180日間滞在できるビジネス関係者向けのビザ発給開始を表明した。
ビザ免除拡大政策を推進する中国の習近平国家主席
米調査会社モーニング・コンサルトの調査によると、日本やカナダ、ロシアなど41カ国を対象とした好感度調査で、今年春に中国が初めて米国を上回った。トランプ大統領が各国への相互関税を発表した4月以降、中国への好感度が急上昇したとされており、これは習政権にとって追い風となっている。
中国政府の発表によれば、2024年の外国人旅行者は2694万人となり、2019年比で8割強まで回復したが、さらなる伸びしろが大きいと見られている。
日本への影響と政策の恣意性
一方で、中国のビザ政策には恣意的な側面も散見される。日本は、もともと短期ビザが免除されていたにもかかわらず、コロナ禍を機にビザ取得が義務化された。その後、他の国々への免除対象が広がる中でも、日本はしばらく取り残される形となった。
日本への短期ビザ免除が再開されたのは、ようやく昨年11月のことである。この背景には、米大統領選でトランプ氏が当選した場合、米国の対中政策が一層硬化することへの懸念があり、対日関係の改善を急いだことが一因とされる。中国はビザ免除に際して、1年間など暫定的な期限を設けるケースが多く、相手国との関係によって政策を見直す余地を残している姿勢がうかがえる。
結論
中国のビザ免除対象国戦略的な拡大は、経済回復だけでなく、米国との対比を通じた「開放性」のアピールという政治的・外交的な狙いが色濃く反映されている。この政策は、国際社会におけるソフトパワーを高めるための手段として活用されている一方、対象国や期限の選定には恣意性が含まれることもあり、特に日本のケースはその一例と言える。今後の米中関係や各国の対中関係の変化に応じて、中国のビザ政策がどのように展開していくか注目される。