生活習慣病を防ぎ、認知症を遠ざけるためには、やはりバランスの良い食事を取ることは大事です。日々の食生活は、私たちの脳の健康に深く関わっています。82歳の認知症研究第一人者が指南する、食生活における認知症予防の要点をご紹介します。
認知症リスク低減へ:バランスの取れた食事が鍵「一汁三菜」を基本に
バランスが良く、多様な食品を摂取することは、認知症リスクを低減させることが研究で明らかになっています。国立長寿医療研究センターと国立がん研究センターの研究グループが共同で行った研究では、多様な食品を摂取するほど認知症のリスクが低下する傾向が見られました。特に女性の場合、1日に摂取する食品の種類が多いグループでは、最も少ないグループに比べて認知症の発症リスクが33%も低下していたのです。
バランスの良く、多様な食品を摂取するという意味で最もおすすめなのは、日本人が長く親しんできた和食の基本と言われる「一汁三菜」です。一汁三菜とは、主菜1品と副菜2品に汁物とご飯を組み合わせた食事スタイルのこと。主菜からは動物性・植物性のタンパク質を、緑黄色野菜や淡色野菜、海藻や豆、芋などが多く使われる副菜や汁物からは、ビタミンやミネラル、食物繊維などをしっかりと摂取することができます。
ご飯、味噌汁、魚などを組み合わせたバランスの良い日本の家庭料理(一汁三菜)の写真
九州大学が中心となって行っている久山町での疫学調査でも、60〜79歳の男女1006人を対象に食事パターンと認知症の関連性が調べられていますが、「緑黄色野菜や淡色野菜、大豆・大豆製品、藻類、牛乳・乳製品、魚、果物、イモ類」をよく摂取するほど認知症になりにくいという結果が出ています。これらの食材を上手に取るのにも一汁三菜はぴったりでしょう。
見直すべき「和食の常識」:潜む塩分の危険性
ただし、和食で注意したいのは塩分です。塩分の取りすぎで高血圧になると脳血管障害のリスクが上がり、血管性の認知症になる心配もあるので、「減塩」は心がけたい生活習慣の1つです。
イギリスでは、2005年から「What’s good for your heart is good for your head」(心臓病の治療が認知症予防となる)というスローガンを掲げ、生活習慣病の予防に関するさまざまな取り組みをしてきましたが、その取り組みの重要なテーマの1つが「減塩」でした。2008〜2011年の75歳以上の認知症の有病率が1989〜1884年に比べ、2〜3割も減少したのはその成果ではないかと考えられています。
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」では、1日の塩分摂取量を男性は7.5g未満、女性は6.5g未満と定めていますので、それを超えないように気をつけてください。味噌や醤油、漬物などは塩分が高めなので、塩分が控えめのものを選ぶなどするほうが安心です。
認知症だけでなく肥満・糖尿病も招く「糖質の摂りすぎ」に注意
もう1つ注意したいのは、主食であるご飯の食べすぎです。砂糖のように甘くなくてもご飯は糖質なので、食べすぎれば肥満のもとになりますし、糖尿病のリスクも上がります。ご飯や甘いお菓子などの糖質の取りすぎにはくれぐれも注意してください。
まとめ:食習慣の見直しが認知症予防の鍵
認知症予防のためには、多様な食品をバランス良く摂る「一汁三菜」を基本としつつ、和食に潜む塩分や、主食・お菓子などからの糖質の摂りすぎに意識的に注意することが重要です。日々の食習慣を見直すことが、健康長寿への確かな一歩となるでしょう。
参考資料:
杉本八郎『82歳の認知症研究の第一人者が毎日していること』(扶桑社)
国立長寿医療研究センター、国立がん研究センター 研究報告
九州大学 久山町研究報告
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」