[西武池袋線の沿線風景。多くの魅力を持つにもかかわらず、一部からは「地味」と見なされる路線。](https://news.yahoo.co.jp/articles/dec124165e33aef9dde7b5f1b699ed4b9efc9f91/images/000)
都心から郊外へ延びる鉄道として、西武池袋線は東急田園都市線やJR中央線快速と共通する機能を持っています。しかし、ある歴史家が「好き好んで西武池袋線に住む人はいない」という意味合いの言葉を語ったとされています。本当にそうなのでしょうか。この問いを探る書籍『西武池袋線でよかったね』の冒頭部分を基に、西武池袋線沿線、そして始発駅である池袋の知られざる歴史や魅力を再考します。「なんにもないと思われている土地にも歴史はある。それをちょっと知るだけで『まち』が違って見える」――この記事は、単なる鉄道論ではなく、池袋という街、そして西武池袋線という存在が内包する多層的な「微妙さ」に焦点を当て、その背景にある文化や歴史を紐解くものです。
池袋が持つ「微妙さ」とは
この議論において、「西武池袋線」という言葉は、単に実際の路線を指すだけでなく、ある種の「微妙さ」を包含する比喩として捉えられています。実際の西武池袋線は、池袋を起点に東京の郊外を抜け、埼玉県へと至る私鉄です。
まず、池袋という土地そのものに、どこか掴みどころのない「微妙」な感覚が漂っているのではないでしょうか。巨大なターミナル駅でありながら、洗練されているとは言い難い、独特の雰囲気があります。かつて池袋駅東口、西武百貨店にはセゾン美術館があり、その向かいには音楽と映像の専門ビルWAVEが建ち並んでいた時代がありました。
WAVEの旗艦店は六本木にあり、映画館やカフェ「雨の木(レインツリー)」を併設するなど、1980年代以降に本格化した日本の消費文化を語る上で象徴的な存在でした。今振り返ると、ある種の知的スノビズムとも見なされかねない、そうした西武グループが牽引する文化、すなわちセゾン文化の一つの重要拠点こそが池袋だったのです。パルコ発祥の地も池袋であり、個性的な書店も揃っていました。西口には東京芸術劇場があり、その先には立教大学が存在します。東急グループの文化や青山学院大学を擁する渋谷と比較しても、文化的な厚みにおいて決して劣っていなかったと言えるでしょう。
西武池袋線・池袋の「ポジション」はなぜ高く見られない?
にもかかわらず、池袋が持つ「ポジション」は、常に高く評価されてきたとは言えない状況です。さらに追い打ちをかけるように、西武百貨店は投資ファンドに売却されるという事態に直面しました。2023年8月には、百貨店としての矜持を守ろうと労働組合がストライキを決行し抵抗しましたが、百貨店区画は縮小される方向です。2025年2月現在も、大規模な改装工事が進められています。
[西武百貨店池袋本店の1階入口付近に残る現代アート作品。かつてのセゾン美術館の痕跡であり、セゾン文化の終焉を象徴する。](https://toyokeizai.net/articles/photo/881656?pn=2&utm_source=yahoo&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=inarticle)
西武百貨店の1階入口付近には、かつてセゾン美術館の噴水がありました。その隣には、どこか場違いな、とってつけたような現代アート作品が展示されていました。このアート作品の存在は、セゾン文化の消失を静かに物語っているかのようです。それに加えて、池袋の顔ともいえる西武百貨店そのものまでが、かつての勢いを失いつつあります。こうした状況を目の当たりにすると、時代の移り変わりと寂しさを感じざるを得ません。
結論:見過ごされがちな歴史と魅力
西武池袋線や池袋が「地味」あるいは「微妙」と見なされがちなのは、その歴史的な文脈や文化的な厚みが見過ごされがちなためかもしれません。かつてセゾン文化の一大拠点であり、渋谷にも劣らない文化的要素を持っていた池袋は、時代の変遷と共にその姿を変えています。西武百貨店の変化はその象徴と言えるでしょう。しかし、「なんにもないと思われている土地にも歴史はある」。西武池袋線沿線や池袋には、表面的なイメージだけでは捉えきれない豊かな歴史や多様な魅力が確かに存在します。その微妙な魅力を知ることで、「まち」の見え方が変わってくるのです。
参考文献
- 『西武池袋線でよかったね』(交通新聞社新書) 冒頭部分
- Yahoo!ニュース記事 (https://news.yahoo.co.jp/articles/dec124165e33aef9dde7b5f1b699ed4b9efc9f91)