出入国在留管理庁と厚生労働省は2025年3月、造船大手の今治造船(愛媛県今治市)に対し、技能実習生の受け入れに必要な実習計画の認定2134件を取り消す処分を下した。一事業者の取り消し件数としては過去最多となる。
きっかけは21年に発覚した造船所内に設置したクレーンの点検不備だ。労働安全衛生法違反による罰金刑が確定しており、それが処分の引き金となった。30年3月までの5年間にわたり、同社は技能実習生や新たに創設される「育成就労制度」による人材の受け入れができなくなった。
今治造船によるとクレーン作業に実習生は関与しておらず、危険な目に遭った事例はないという。それでも現場の安全管理が不十分であれば、制度が利用できなくなるという重い処分が下された。造船業界の雄への「レッドカード」は、製造業全体への強いメッセージでもある。
●海外からの厳しい視線
こうした厳格な処分は今治造船に限らない。19年には、実習計画と異なる業務に携わらせていたとして、パナソニックや三菱自動車も同様の認定取り消し処分を受けている。
製造業や建設業などの現場を支えてきた技能実習制度は、日本で学んだ技術を母国で生かす「技術移転」を軸とした国際貢献が目的だ。だが実際は人手不足の中で、都合の良い労働力として利用されてきた。
国際社会からの批判は根強い。米国務省が24年に公開した「人身取引報告書」では、制度に強制労働の実態があると指摘。国際労働機関(ILO)も「労働者保護が不十分」とリポートで指摘している。
技能実習制度に詳しいスリランカ出身の佐賀大学名誉教授、ラタナーヤカ・ピヤダーサ氏は「職場の安全だけでなく、海外からの批判を考慮して、政府は受け入れ停止という重い処分を科している面もある」と分析する。
ただ、実習生も稼ぐために来日しているのが実情だ。ピヤダーサ氏が中国やベトナムなどアジアから来日した元実習生ら約2000人に行ったアンケートによると、来日する理由の84%が「家族の支援」、14%が「家の購入」と回答だった。「技能の習得」を目的としている実習生はごく僅かで、帰国後に同じ業種や業務に就く者は1割未満という。
さらに、来日前には中間業者や悪質なブローカーに100万円以上を支払うケースもある。土地を担保に借金をして来日する実習生も多く、制度利用の入り口から搾取構造が成立している点も、批判の的となっている。