特定危険指定暴力団工藤会(本部・北九州市)トップで総裁の野村悟被告(78)(2審で無期懲役、上告中)側が所有する土地について、福岡地裁小倉支部が処分禁止の仮処分命令を出したことが関係者への取材で明らかになりました。これは、同会が関与した事件の被害者側が、野村被告が土地を親族に信託したことに対し、将来的な賠償金回収のため資産を保全する目的で申し立てたものです。
工藤会総裁 野村悟被告の土地に処分禁止の仮処分命令を出した福岡地裁小倉支部
仮処分命令の概要
命令は今年5月22日付で出されました。登記簿などによると、処分禁止の対象となっているのは、北九州市小倉北区にある駐車場など少なくとも約10筆、面積にして約1200平方メートルに上る土地です。これらの土地は、野村被告が2020年にそれぞれ、親族2人に信託し、所有権が移転されていました。
被害者側との賠償訴訟と資産保全の課題
工藤会は、これまで市民襲撃事件など複数の凶悪事件を引き起こしており、組員らが刑事裁判で有罪判決を受けています。野村被告自身も、事件の遺族や被害者側から損害賠償を求める民事訴訟を次々と起こされています。一部の事件では、野村被告の賠償責任がすでに確定しており、工藤会の本部事務所の売却益が被害者への賠償金支払いに充てられた例もあります。
一方で、野村被告が自主的に賠償金の支払いに応じない場合、通常は野村被告が所有する不動産などを差し押さえ、強制競売にかけることで賠償金を回収することが考えられます。しかし、被害者側との訴訟が継続していた2020年、今回仮処分命令の対象となった駐車場を含む、野村被告が所有していた小倉北区の土地少なくとも20筆以上(総面積7000平方メートル超)が、親族2人に信託により所有権が移転されていました。
「信託」制度が悪用される懸念と保全措置
信託とは、特定の目的(例えば、老後の財産管理など)のために、他人に自分の財産の管理や処分を任せる制度です。信頼できる家族に不動産や預貯金を託すといった形で利用されます。信託法では、原則として信託された財産は、委託者の債権者が差し押さえや強制競売をすることができないと定められています。このため、野村被告が土地を信託に移したことで、被害者側への賠償金支払いが滞るのではないかという懸念が生じていました。
しかし、信託が債権者を害する目的で行われた場合は、その信託を取り消す訴訟を起こすことが可能です。被害者側は、この「信託取り消し訴訟」を見据え、訴訟の確定前に野村被告側の資産がさらに処分されてしまうのを防ぐため、まず今回の処分禁止の仮処分を申し立てたとみられています。これは、将来的な権利行使(賠償金回収)を確実にするための、資産保全の重要な手続きとなります。
土地名義変更に関する過去の相談
関連情報として、関係者によると、2019年頃に野村被告の親族の一人が、ある弁護士に対し、「(野村被告の土地の)名義を自分に移したい」と相談を持ちかけていたことが分かっています。親族からは詳しい目的の説明はなかったそうですが、当時すでに野村被告を相手取った訴訟が続いていたことから、その弁護士は「名義を移した場合、財産隠しと指摘される可能性がある」と考え、その依頼を断ったということです。
今回の仮処分命令は、 강력한 暴力団トップの資産に対する異例の保全措置であり、今後の賠償金回収に向けた被害者側の法的な戦いに大きな意味を持つとみられています。