ドゥームスクローリングとは? スマホで悲惨なニュースばかり見てしまう心理とその影響

スマートフォンなどで、知らず知らずのうちに暗く不穏な情報や悲惨なニュースばかりを追い続けてしまう現象は、「ドゥームスクローリング」と呼ばれています。これは精神面に悪影響を及ぼすことが指摘されており、特に自宅でもスマホが手放せないような依存度が高い人が、自覚できないまま陥ってしまうケースが多く見られます。外出が億劫になりがちな梅雨時や真夏は、こうした状態に陥りやすい“危ない”季節とも言えます。では、具体的にどのような現象で、なぜ起きてしまうのでしょうか。

「ドゥームスクローリング」の定義と背景

ドゥームスクローリング(Doomscrolling)は、「doom」(破滅、悲運)と「scrolling」(スクロールする)を組み合わせた造語です。文字通り、悲惨な出来事やネガティブなニュースを、延々とスマホなどで探し続け、読み続ける行為を指します。特に、戦争、災害、パンデミック、経済不安など、世界的に不安を引き起こす出来事が発生した際に顕著になる傾向があります。この行為は、最新情報を知っておきたいという欲求から始まることが多いですが、次第に制御不能になり、精神的な疲弊や不安の増大を招くことが懸念されています。

スマホでドゥームスクローリングに陥り、暗いニュースを見続けることで感じる不安な心理状態を表すイメージ。スマホでドゥームスクローリングに陥り、暗いニュースを見続けることで感じる不安な心理状態を表すイメージ。

悲惨なニュースに囚われた男性のケース

実際にドゥームスクローリングに陥った例を見てみましょう。さいたま市に住む30代の会社員男性は、2022年の春、約3~4カ月間、スマホで戦争に関する悲惨なニュースばかりを追い続ける日々を送りました。

きっかけは、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻でした。よく行く酒場でこの問題について語る飲み仲間の男性がおり、周りの客と議論する様子を見て、自身の無知を恥ずかしく感じたといいます。その結果、ウクライナ侵攻のニュースやSNSの情報を見るようになったのです。

独身で友人も多くなく、コロナ禍での「黙食」や自宅での巣ごもり生活が続く中で、スマホをだらだらいじる癖がついていた男性は、元々陰謀論に興味を持ったこともありました。それが、ウクライナ侵攻に関する情報収集へと置き換わっていきました。

ウクライナの女性が泣いている姿や、おびえている子どもたちの映像を見るうちに、男性は次第に苦しさを感じるようになります。「なぜこんなことが起きているのか」を知りたい衝動に駆られ、さまざまな情報に接するようになりました。同時に、「ロシアふざけんな、負けちまえ!」という強い憤りも感じるようになったといいます。

ウクライナ軍が攻勢に出たというニュースには心が晴れる思いがしましたが、ほとんどの情報はウクライナの悲劇的な状況を伝えるものでした。気付けば、通勤中も食事時もベッドの中でも、ウクライナに関する悲惨なニュースや情報を確認し続けるようになっていました。

特に印象的な出来事として、ロシア料理のイメージがあるボルシチが実はウクライナ発祥であることを巡り、「ロシアが食文化を盗んだ」と書かれたSNSの投稿を見た際に、強い怒りがこみ上げたことを振り返っています。「笑われるでしょうが、なんて卑怯な国なのかと」。記憶にないそうですが、兄と会った際にも、ウクライナ侵攻について熱弁したことがあったようです。

なぜ人はネガティブな情報に惹かれるのか?

このようなドゥームスクローリングはなぜ起きてしまうのでしょうか。スマホを見続けるのであれば、ポジティブで楽しい情報を見た方が精神的に楽なはずです。一つの要因として、「ネガティビティ・バイアス(Negativity Bias)」が挙げられます。これは、人間の脳がポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすく、より強く反応する傾向があるという心理的な偏りです。太古の昔、危険をいち早く察知することが生存に不可欠だった名残とも言われます。

また、不安定な状況下では、最悪のシナリオを知っておくことで、心の準備ができる、あるいは制御不能な状況でも「知っている」という安心感を得られると無意識に考えてしまうこともあります。SNSやニュースサイトは、ユーザーの関心を引きつけようと速報性や衝撃的な見出しを多用するため、このネガティビティ・バイアスがさらに強化され、ドゥームスクローリングを促進しやすい構造になっています。

ドゥームスクローリングは、単なる情報の過剰摂取ではなく、精神的な健康を損なう可能性のある行為です。自身の情報収集の習慣に意識を向け、適切に管理することが重要と言えるでしょう。

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