新型コロナウイルスの流行によって日本中が引きこもり状態にあった令和2(2020)年7月、熊本県や鹿児島県を集中豪雨が襲った(熊本豪雨)。
【写真】山間にこだまする重機の音、折れ曲がり宙づりになった線路…廃止目前から一転復旧を決めた被災路線「肥薩線」の過去と現在を写真で一気に見る
このとき、熊本県の八代から球磨川に沿って走るJR九州の肥薩線は、鉄橋の流失や駅・線路への土砂流入など路線の至る箇所で甚大な被害を受けて、全線124.2kmの半分以上にあたる86.8kmが運休に追い込まれた。
もともと沿線住民の利用が少ない赤字ローカル線だったことから、このまま鉄道では復旧せず廃止されてしまうのではないか、とも予測されていた。
廃止の見込みを一転させた日本で2例目の“方式”
だが、今年4月、運休区間のうち「川線」と呼ばれる球磨川沿いの八代〜人吉間51.8kmについて、JR九州と熊本県は令和15(2033)年度頃の運行再開を目指して鉄道で復旧することを合意。
復旧後は、線路や駅の敷地や施設は沿線自治体が保有・管理し、JR九州は列車の運行のみを担当するという、いわゆる「上下分離方式」が採用されることになった。
自然災害で長期運休に追い込まれたJRの在来線が上下分離方式で復活すれば、同じように夏の集中豪雨で河川が氾濫して鉄橋流失などの被害を受けたJR只見線(福島県)の会津川口〜只見間が令和4(2022)年に上下分離方式で復活して以来、2例目となる。
とはいえ、運行再開予定はまだ8年も先のこと。合計13年間もの運休は、只見線が復活に要した11年あまりをさらに上回る。
大勢の旅行客を乗せた観光列車が行き交っていた球磨川沿いの風光明媚な景勝区間は今、どうなっているのか。平成6(1994)年8月と平成30(2018)年5月の2度にわたってこの区間を列車で旅したときの記録と記憶を頼りに、現地を再訪してみた。
新幹線駅のすぐ隣にある肥薩線の“起点”に向かう
肥薩線の起点である八代駅は、九州新幹線の新八代駅の隣に位置している。鹿児島方面へは第3セクターの肥薩おれんじ鉄道が接続しているが、肥薩線の運休後は熊本方面からの特急列車の発着も休止されてしまい、広々とした駅構内だけが往年の賑わいを偲ばせている。
列車が走れなくなったとはいえ肥薩線はあくまでも運休扱いなので、並行する道路を走って旅客輸送を担う代行バスが運行されるのが通常である。