日本は東日本大震災以降、「大地変動の時代」に突入しました。地震や火山噴火が頻発するこの時代を生き延びるためには、地学の知識が不可欠です。京都大学名誉教授である鎌田浩毅氏の著書『大人のための地学の教室』では、地学のエッセンスと自然災害から身を守るための実践的な知識が明快に解説されています。本記事では、その内容の一部を紹介します。
オーストラリアは安全な「夢の国」か？
テレビドラマ『日本沈没』では、地震の脅威がないオーストラリアが「夢の国」とされました。現実ではどうでしょう？オーストラリアは大陸地殻を持つ「小さな大陸」で、ヨーロッパや北米の多くと同様に安定しています。ニューヨークの110階建てビルが建つように、地震が少ないからです。日本に比べれば地震は少ないですが、全くないわけではありません。オーストラリアは島とも、付加体がない点から「亜大陸」とも言えます。これはインドも同様です。
自然災害が多い日本列島と地学で備える知識
アスペリティとスロースリップの違い
次に、専門的な質問としてアスペリティという現象と『日本沈没』に登場したスロースリップは別物か、という点です。結論から言えば、一応別物です。アスペリティ（asperity）は、プレート境界などで普段固着し、次に急激にずれて地震波を出す領域です（1981年提唱）。まだ動いていない、次に地震を起こす「場所」という名詞的なイメージです。一方、スロースリップは「ゆっくりすべり」が実際に起きている現象そのもの。動詞的です。
南海トラフ地震とスロースリップ観測
このスロースリップの観測は、防災や地震予知に重要です。特に紀伊半島の熊野灘は東南海地震の震源域であり、ここで起きるスロースリップは観測上極めて重要。ここから東南海→東海→南海地震と連動する可能性があるからです。宮崎県沖の日向灘でも観測されており、年間約5センチメートル程度のズレが生じている地点もあります。スロースリップは動詞的な現象です。一方、震源域のどこが動くか予測に使うアスペリティは、約40年前に生まれた地震学の古典的専門用語です。
日本の「大地変動の時代」では、地学知識が自然災害から身を守り、生き延びる羅針盤となります。南海トラフ地震リスクを理解し、スロースリップ観測を知ることは防災意識を高めます。これらの貴重な知識は、京都大学名誉教授・鎌田浩毅氏の専門性に基づくものです。「知識は力なり」です。
