立憲民主党の野田佳彦代表は、国会最終盤の6月19日に石破茂内閣への不信任決議案提出を見送る決断を下しました。この背景には、永田町でかつて囁かれ、今また再燃し始めたある政治的な「怪談話」、すなわち「大連立」構想の存在があると言われています。
不信任決議案提出の見送りについて、野田代表は対米関税交渉や緊迫する中東情勢などを理由に挙げました。しかし、立憲民主党内部からは異なる見方が示されています。
不信任案見送りの真意:衆参同日選回避のリスク管理か
ある立憲民主党の中堅議員は、不信任案提出見送りの真の理由は別にあると指摘します。小泉進次郎農相の活躍などで内閣支持率が回復基調にある石破内閣に対し不信任案が可決されれば、石破首相が衆議院を解散し、衆参同日選に踏み切る可能性が高かったと分析。野田代表は、この同日選での敗北リスクを回避し、衆議院で野党が過半数を占める現在の状況を維持することを選んだのだとしています。この姿勢に対して、党内からは「弱腰」との批判も上がったといいます。
石破内閣不信任案見送りで注目される立憲民主党・野田佳彦代表
参院選後を見据えた「大連立」構想の再燃
一方で、この不信任案見送りが、参議院選挙後に自民党・公明党と立憲民主党が「大連立」を組むための布石、いわば「出来レース」ではないかとの見方も党内ではささやかれています。仮に自公両党が参院選で過半数を維持できたとしても、衆議院では少数与党である状況は変わりません。政権を安定させるためには、連立を拡大する以外に道はないという状況です。この時、財政政策に関する考え方が比較的近い立憲民主党が、連立のパートナーとして最も有力視されているというのです。
「絶対必要条件」:中選挙区制復活への高いハードル
しかし、自公と立憲民主党による大連立が実現するためには、超えなければならない大きなハードルが存在します。それは、現在の小選挙区比例代表並立制という選挙制度を、かつての中選挙区制に戻すことです。現在の制度の下では、たとえ3党が連立に合意したとしても、全国に289ある小選挙区での候補者調整は極めて困難です。さらに、党内からは「連立入りしても小選挙区制のままでは、自民党・公明党に加えて国民民主党や日本維新の会からも挟撃され、立憲民主党は壊滅的な打撃を被る」といった悲観的な観測も出始めており、構想の実現は容易ではありません。平成6年以来となる選挙制度の大幅な変更という、極めて大きな事業が待ち受けます。これを完遂できなければ、立憲民主党の勢力が衰退することは避けられないとの見方もあります。
多党制時代に合わない小選挙区制?選挙制度改革への機運
別の立憲民主党幹部は、選挙制度改革の可能性について語ります。小選挙区制は基本的に二大政党制を前提としていますが、最近の東京都議会議員選挙などを見ても分かるように、現在は小規模政党が乱立する多党制の時代に突入しています。最大与党である自民党ですら単独で過半数を獲得することが難しくなっており、与野党を問わず、ほとんどの政党が現在の小選挙区制は日本の政治状況にそぐわないと考えているといいます。もし国会で中選挙区制への変更が本格的に議論され俎上に載れば、党派を超えて異論が出にくい状況になっている可能性も指摘されています。
結論:野田代表のイバラの道
このように、立憲民主党の野田代表が不信任案提出を見送った背景には、目先の衆参同日選回避という戦術的な判断に加え、参院選後の大連立、そしてそれに伴う選挙制度改革という壮大な政治構想が影響している可能性が指摘されています。構想の実現には困難が伴いますが、党勢の行方もかかる重要な岐路に立たされています。野田代表の行く先は、進むも退くもイバラの道のように見えます。