ココイチ、値上げでも過去最高益へ なぜ高級路線が成功したのか

「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋の業績が驚異的な好調を維持しています。5期連続の増収に加え、3期連続の増益を達成し、今期は6期ぶりに過去最高益を更新する見込みです。この好業績の背景には、度重なる価格改定、すなわち値上げがあります。現在、ココイチの1人当たりの客単価は1200円に達しており、かつてのイメージから一転、「高級店」とも言える位置づけになりつつあります。にもかかわらず、なぜココイチは売上を拡大し続けられるのでしょうか。その要因を分析します。

カレーハウスCoCo壱番屋の店舗外観とロゴ、好調な業績を示すニュースカレーハウスCoCo壱番屋の店舗外観とロゴ、好調な業績を示すニュース

大胆な価格改定とその影響

壱番屋は近年、積極的な価格改定を実施してきました。2022年6月にはベースカレーの価格を5.9%(33円増)引き上げ、同年12月にはさらに7.4%(44円増)の値上げを行いました。そして極めつきは、2024年8月の10.5%(43円から76円増)という大幅な値上げです。特に昨年の1割値上げは大きく、直後の2024年9月から2025年5月までの間、既存店の客数は前年を下回る月が続きました。

しかし、これと同時に客単価は約1割増加しました。その結果、客数減を補って余りある売上増を達成しています。具体的には、2024年9月から2025年5月までの既存店売上高は平均で6.4%増となりました。値上げが収益向上に大きく貢献した形です。壱番屋は過去2期連続で売上高が二桁増を記録しており、今期もさらに1割増の計画を立てています。これは外食チェーン全体を見ても際立った好調ぶりと言えるでしょう。

フランチャイズ比率が高い中での値上げ判断

この強気な値上げ戦略において重要なポイントは、ココイチの店舗構成です。全国に約1200店舗を展開するココイチですが、その約9割はフランチャイズ加盟店が占めています。直営店であれば、客離れが発生した場合でも閉店などの大胆な戦略転換が可能ですが、フランチャイズの場合はそう簡単にいきません。加盟店の収益にも直結するため、値上げ判断には通常、より慎重さが求められます。しかし、壱番屋はリスクを承知で断行し、見事な結果を掴み取りました。この成功は、単に価格を上げただけでなく、顧客が離れなかった理由があるはずです。

なぜ顧客は離れなかったのか?カレーという業態の特性と顧客層

客離れが起きなかった要因の一つとして、「カレー」という業態自体の特性と、ココイチの主要な顧客層が挙げられます。一般的にカレーは「子供が好きな食べ物」というイメージが強く、若者がよく食べると考えがちです。しかし、実際の消費頻度は逆の傾向が見られます。

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「カレーに関する調査(2025年)」によると、20代から60代の全年齢層における月1回以上のカレー喫食率は69.6%でした。これを年齢別に見ると、20代は66.9%、30代は調査対象内で最も低い65.3%となります。しかし、40代から徐々に増加し、50代では平均を上回る71.9%に達しています。つまり、年齢層が高いほどカレーを食べる頻度が高い傾向にあるのです。

さらに、健康機器メーカーのタニタが行った「令和ビジネスパーソンのランチ事情に関する調査 2025」では、年齢層別に「ランチを決める際に最も重視すること」を尋ねています。それによると、30代で最も多かったのは「価格」で39.0%と突出していました。対照的に、50代で「価格」を重視する割合は28.5%まで下がります。そして、50代が最も重視するものとして挙げたのは「味」で22.5%でした。「味」を重視する割合が20%を超えたのは、全年齢層の中で50代のみです。

これらの調査結果から、ココイチの主要顧客層である年齢層の高い層、特に50代は、若年層に比べて「価格」よりも「味」を重視する傾向が強いことが分かります。ココイチは、長年の経験と専門性に基づき、多くの顧客に支持される「味」を提供しており、これが価格改定後も顧客が離れず、むしろ客単価増に貢献した大きな理由と考えられます。フランチャイズ店舗が多い中でも、壱番屋が提供するブランド力と味が、値上げに対する顧客の許容度を高めたと言えるでしょう。

まとめ

カレーハウスCoCo壱番屋を運営する壱番屋は、度重なる大胆な値上げにもかかわらず、客単価の大幅な向上によって売上・利益を拡大し、過去最高益更新を見込む好調な業績を達成しています。この成功は、フランチャイズ比率が高いという難しさの中で行われた経営判断の成果であると同時に、カレーという業態の特性と、味を重視する年齢層の高い顧客層が主要な支持基盤となっていることが大きく影響しています。ココイチは、価格帯が上昇した「高級店」となりつつも、長年培ってきた「味」とブランド力によって、顧客からの支持を維持し、さらなる成長への道を着実に進んでいます。

参考文献:

  • 壱番屋 決算資料 (記事中で言及されている業績数値に基づく)
  • クロス・マーケティング「カレーに関する調査(2025年)」
  • タニタ「令和ビジネスパーソンのランチ事情に関する調査 2025」