ドイツのヴィースバーデンに位置する米軍基地「クレイ兵舎」は、ウクライナに対する北大西洋条約機構(NATO)および西側以外の支援国からの兵器、装備、訓練の調整において中心的な役割を担っています。この基地には、ウクライナ人を含む31カ国から集まった約350人の兵士が勤務しており、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中で、ウクライナの差し迫ったニーズに対応するための活動を展開しています。NATOがこの地にウクライナ支援調整司令部(NSATU)を設置してから約半年が経過し、その支援のあり方は新たな段階へと移行しつつあります。
ドイツ、ヴィースバーデンのクレイ兵舎。ウクライナ支援調整のため活動する兵士たち。有刺鉄線に囲まれた基地の様子。
ウクライナ支援戦略の転換
2022年のロシア侵攻当初、NATO加盟国は主に自国の兵器備蓄を供与することでウクライナへの軍事支援を行ってきました。しかし、この戦略は転換点を迎えています。NSATU副司令官のマイク・ケラー少将はロイターに対し、軍事支援はウクライナ自身の国防産業を強化する方向へますます移行していると語っています。これは、単に外部から供給するだけでなく、ウクライナ国内での生産能力を高めることを目指すものです。
ドローン生産への注力
ウクライナの国防産業、特にドローン製造における創造性と技術革新のスピードは、NATO加盟国から高く評価されています。ケラー少将は、技術革新から生産、認証に至るまでのプロセスが非常に速いことを指摘しました。ドローン製造は、NATO加盟国がウクライナから学び、将来的にはウクライナ製のドローンを購入する可能性もある分野です。ケラー少将は「防衛調達は一方通行ではない。ウクライナから購入したいドローンは確かに多くある」と述べつつ、現時点ではウクライナが自国で生産したドローンを全て必要としているとの見解を示しました。
NATO欧州連合軍副最高司令官のキース・ブラウント海軍大将も、特にドローンのような自動操縦兵器に関して、西側はウクライナから多くを学べると述べています。海上、水中、地上、空中のあらゆる領域でのドローン活用が進んでおり、ウクライナがドローンの利用方法だけでなく製造方法も学んでいる点は非常に興味深いと語りました。
ウクライナの差し迫ったニーズ
ウクライナが現在最も必要としているのは、防空システム、弾薬、対戦車地雷といった装備です。これらは、ロシアとの戦争で多くの部隊を前線に拘束されることなく、自国領土を防衛するために不可欠です。欧州同盟国やカナダは、ロシアの軍事的野心への懸念や、将来的な米国の防衛関与への不確実性に対応するため、防衛費を増大させる準備を進めており、NATO加盟国は自国の兵器備蓄を補充するためにも、ウクライナ向けの兵器を製造する企業が必要になるとケラー少将は指摘しました。
米国の役割と今後の展望
NSATUは、一部には米国のウクライナ支援への依存度を低める目的で設立されました。米国の兵器供与の一部停止がこうした懸念を浮き彫りにし、ウクライナの防衛能力に対する新たな懸念が生じています。それでも、米国はNSATUの司令官を務め、ヴィースバーデンに勤務する人員の約9%を派遣しています。
物資の大半は、ポーランドにあるNSATUの主要拠点を通じてウクライナに送られており、毎月1万8千トンが輸送されています。ルーマニアには第2の拠点が建設中です。ケラー少将は、NSATUを経由する軍事支援は当面安定的に続くと見込んでいますが、これは今後の政治的な判断に左右されると強調しました。米国がウクライナ支援から離脱した場合でもウクライナの抵抗を支えられるかとの問いに対して、ケラー少将は「可能だ」と答えました。しかし同時に、衛星監視のようなある種重要な能力については、欧州とカナダが代替する対応を迫られるのではないかとの懸念も示しました。
Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/c9fcd027e3ff533947e479cd5ddebe03ba99c944