米国のドナルド・トランプ前大統領が、昨年7月の大統領選期間中の演説中に経験した銃撃未遂事件から、7月13日で丸1年を迎えます。九死に一生を得たこの経験は、その後の彼の過激な政権運営への傾倒に影響を与えた可能性が指摘されています。この1年という節目にあたり、事件の経緯とその政治的余波について改めて見ていきます。
演説中の銃撃と「神の手」の信念
事件は昨年7月13日、ペンシルベニア州西部のバトラーで行われた選挙演説中に発生しました。トランプ氏に向けられた8発の銃弾のうち、1発が彼の右耳をかすめました。流れ弾は複数の聴衆に命中し、残念ながら消防士の男性1名が命を落としました。トランプ氏は、米FOXニュースの番組で事件について問われ、「忘れることはできない」と神妙な面持ちで語りました。「直後に警護のスナイパーが犯人を仕留めなければ、状況はさらに悪化していた」とも回顧しています。
銃撃直後、シャツに血が滲む姿で立ち上がり、「戦え(ファイト)」と3度叫びながら拳を突き上げるトランプ氏の姿は、多くの米国民の記憶に深く刻まれました。彼はこの暗殺未遂事件を切り抜け、その後の大統領選を完勝し、劇的な復活劇を果たしました。トランプ氏と親しいジャーナリストのサリーナ・ジト氏は、トランプ氏自身が、この命拾いを「神の手」によるものだと確信していると述べています。
2025年7月13日、ペンシルベニア州バトラーでの演説中、銃撃後に立ち上がり拳を突き上げるドナルド・トランプ氏。シャツに血が滲んでいる。
死の淵から過激路線へ?ブレマー氏の分析
国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、死を間近に感じた経験がトランプ氏の思考パターンを変えた可能性があると分析しています。トランプ氏の2期目の特徴として挙げられるのは、強引な不法移民国外追放、連邦政府職員の大量解雇、世界規模での関税引き上げなど、過激な政策を驚異的なスピードで実行している点です。
ブレマー氏は、「神に救われたという自信と、『いつ死んでもおかしくない』という切迫感の双方が、『破壊的で革命的な行動』へと彼を駆り立てている」と解説しています。
米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査平均によると、トランプ氏の支持率は現在45.6%です。その過激な政権運営は米世論を大きく二分していますが、「MAGA(Make America Great Again)」を掲げる強固な支持層の支持は揺らいでいません。トランプ氏自身も今年4月の米誌アトランティックの取材に対し、2期目について「国と世界を運営している」と語っており、強い自信を覗かせています。
銃撃未遂事件は、トランプ氏にとって文字通り命に関わる出来事でした。この経験が、彼が現在見せる過激で断行的な政治手法にどれほど影響を与えているかは、今後も議論の的となるでしょう。しかし、確かなのは、彼はその事件を乗り越え、再び政治の舞台で大きな存在感を放っており、その行動原理には、生命の危機を乗り越えた経験が深く関わっている可能性が高いということです。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/60ec52b9293831a5d70e53a548b7ed1b02b4ea6f