元徴用工訴訟の原告であり、2025年1月に逝去されたイ・チュンシク(李春植)氏の子ども2人が、父親の署名を偽造し、「第三者弁済」方式による解決金を不正に受領した疑いが韓国警察の捜査で明らかになりました。この事態を受け、光州西部警察署は6月25日、私文書偽造および偽造私文書行使の容疑で当該の2人を検察に送致。この不正受領事件は、元徴用工問題の複雑さに新たな側面を加えるものとして注目されています。
元徴用工イ・チュンシク氏、第三者弁済の不正受領事件で焦点に
署名偽造の手口と捜査の進展
警察の捜査によれば、2024年10月、イ・チュンシク氏が病院で療養中であった際、子どもたちが強制動員被害者支援財団からの判決金受領書類を「病院関連書類」と偽り、イ氏に署名させた疑いがあります。この偽造された署名済みの書類は、その後政府に提出され、財団を通じて「第三者弁済」方式で3億ウォン台(約3,400万円相当)の判決金が不正に受領されたとされています。この不正の疑いは、今年1月にイ・チュンシク氏の長男からの告発を受けて捜査が開始されたことで表面化しました。韓国警察は一連の証拠を基に、私文書偽造などの容疑を適用し、事件を検察に送致するに至ったのです。
判決金返還と名誉回復への道のり
今回の警察による送致結果を受け、今後不正に受領された判決金が返還され、故イ・チュンシク氏の名誉が回復されるかどうかが最大の焦点となっています。イ氏の長男側の弁護団は、現時点では検察がまだ正式な起訴を行っていないため、具体的な法的手続きを進めるには時期尚早との立場を示しています。しかし、今後検察が起訴し、事件が裁判所に移った際には、その時点で偽造された文書の無効を主張し、関連する手続きの「職権取消」を求める方針を明らかにしています。
「職権取消」による解決への期待
判決金の返還を実現する上で、弁護団は行政訴訟を起こすのではなく、外務省や行政安全省傘下の強制動員被害者支援財団に対して「職権による取消処分」を求める戦略を採っています。これは、行政処分を下した機関が自らの処分に瑕疵(かし)があると判断した場合、別途の法的根拠がなくても自らの判断で処分を取り消すことができるという行政法上の原則に基づくものです。もし外務省と財団がこの「職権取消」の要求を受け入れれば、不正に受領された解決金の返還が速やかに実現する可能性が出てきます。
元徴用工イ・チュンシク氏の背景
故イ・チュンシク氏は、全羅南道羅州の出身です。彼は日本の植民地時代末期にあたる1940年代に日本に渡り、日本製鉄釜石製鉄所で強制的に労働に従事させられました。その苦難の経験が、後の元徴用工訴訟の原告となる背景にあります。2025年1月27日、イ・チュンシク氏は老衰のため光州の医療施設で102歳でその生涯を閉じました。彼の人生は、日韓の歴史問題、特に元徴用工問題の象徴的存在として記憶されています。
結び
故イ・チュンシク氏の解決金を巡る今回の不正受領事件は、元徴用工問題の解決に向けた道のりが、単なる国家間の問題に留まらず、被害者個人の尊厳と法的な正義の追求においても多岐にわたる課題を抱えていることを浮き彫りにしました。不正に受領された判決金の返還と故人の名誉回復が実現されるかどうかに、今後も引き続き高い関心が寄せられるでしょう。
参考資料
- KOREA WAVE/AFPBB News