トランプ氏、BBC単独インタビューで本音語る:暗殺未遂、プーチン、NATO、英国への見解

ドナルド・トランプ米大統領は、時に突然ジャーナリストに電話をかけることで知られています。カメラの前での形式的な対面インタビューよりも、即興の電話での会話を好む傾向があるようです。ある夜、BBC主任北米特派員のギャリー・オドノヒュー氏に、ホワイトハウスからの予期せぬ電話がかかってきました。ペンシルベニア州バトラーでの暗殺未遂事件から1年が経過する中、トランプ氏がこの貴重な機会に語った、自身の内面、主要な政策、そして世界観に関する驚くべき見解は、国際政治における彼の立ち位置を改めて示唆しています。

予期せぬ「真夜中の電話」:BBC特派員が見たトランプ氏

ギャリー・オドノヒュー氏は、トランプ大統領からの電話が鳴った時、正直なところ眠っていたと語ります。彼はバトラーでの暗殺未遂事件から1年を機に、大統領への単独インタビューのわずかな可能性を5日間期待し続けていました。1年前の事件直後に現場から報じた彼の内容は世界的に注目され、おそらくそれが大統領の目に留まり、外国メディアとしては非常に珍しい単独取材へと繋がる可能性を秘めていたのです。

前夜に「数分以内に電話がある」と知らされ、取材チームと共に準備を整えて待機していたものの、電話はかかってきませんでした。翌夜、オドノヒュー氏はインタビューの実現を諦め、数週間にわたる休みのない出張取材で疲弊していたため、仮眠を取っていました。その最中に電話が鳴り響いたのです。

寝ぼけ眼で応答すると、スピーカー越しに報道官の声が聞こえ、「こんにちは、ギャリー。大統領が隣にいます。どうぞ」と告げられました。慌ててデジタルレコーダーを探す中、通話が一度切れるというハプニングもありましたが、再び回線がつながり、約20分にわたるトランプ氏との会話が始まりました。話題は、バトラーでの事件から、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への不満、北大西洋条約機構(NATO)への新たな信頼感、そしてイギリスへの見方まで多岐にわたりました。この予期せぬ会話から得られた主要なポイントは以下の通りです。

【主要なポイント】トランプ氏が語った5つのテーマ

1. 暗殺未遂事件への「内省」と心の揺れ

トランプ氏は、いくつかの話題について内省的な様子を見せました。特に暗殺未遂事件について語る際には、心の揺れがうかがえるような口調であり、この件について話すのは本人にとって決して楽なことではないことが明らかでした。

普段は率直で歯に衣着せぬ物言いで支持者から愛されてきたトランプ氏ですが、今回の会話では、沈思黙考しているような様子が何度かうかがえ、答える前に長く考え込むこともありました。

暗殺未遂事件で変わったのかという質問に対し、大統領は「そのことは、できるだけ考えないようにしている」と述べ、かすかなもろさをにじませました。「そのことを、ずっと考え続けるのは好きじゃない。そんなことをすれば、人生が変わってしまうかもしれない。そうはなりたくない」と語り、さらに「ポジティブ・シンキングの力、あるいはポジティブに『考えない』力」を好むと話しました。

また、ロシアのプーチン大統領を信頼しているかどうかを尋ねた際にも、非常に長い沈黙がありました。そしてトランプ氏は、「正直に言うと、自分はほとんど誰も信頼していないんだ」と答えました。この発言は、彼の政治的キャリアを通じて培われた人間関係への深い洞察を示唆しているのかもしれません。

2. 移民強制移送の成果と沈黙の数字

次にアメリカ国内の政治に話題を移し、大規模な移民強制移送の計画はうまくいっているのか、計画実施のペースは順調なのか、そして意図しない人物まで移送の対象になっているがそれでも計画は順調なのかと問われました。

これに対してトランプ氏は、自身の選挙公約を実現するため、政権スタッフが「素晴らしい仕事」をしていると力説しました。メキシコからアメリカへの不法入国者数が急減していることを、具体的な成果として挙げました。

トランプ大統領がマイクの前で演説する様子。単独インタビューで彼の本音が語られた。トランプ大統領がマイクの前で演説する様子。単独インタビューで彼の本音が語られた。

一部の政権関係者からは、強制移送のペースが遅すぎるとの不満も出ています。任期2期目でどれだけの人数を送還すれば成功と言えるのか、オドノヒュー氏が重ねて問い続けましたが、トランプ氏は具体的な数字を挙げようとしませんでした。「数字は出さないが、犯罪者を素早く国外退去させたいと思っているし、実際にそうしている」とトランプ氏は述べ、「エルサルバドルや他の多くの国に送っている」と語りました。

3. プーチン大統領への「失望」:ウクライナ戦争と関係の行方

トランプ氏はこの電話取材でも、プーチン氏に対する不満をあらわにしました。このインタビューに先立ち、トランプ氏はウクライナでの戦争について50日以内に合意が成立しないなら、ロシアに二次制裁を科すと発表していました。

戦争の早期終結を公約に掲げてきたトランプ氏は、いまだにロシアの大統領と合意できていない事態に困惑している様子でした。トランプ氏は、プーチン氏の言葉と行動の間には溝があると改めて指摘し、「4回も合意に達したと思ったが、帰宅してみると、キーウ(ウクライナの首都)の介護施設か何かが攻撃されていた。『一体どうなってるんだ?』と思った」と語りました。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や欧州各国の首脳らは以前から、プーチン氏が戦争終結に本気で取り組んでいないと非難しており、彼らにとってはプーチン氏の真意を疑うのは新しいことではありません。しかし、プーチン氏との関係はおしまいなのかと問われると、トランプ氏は「まだ見限ったわけではないが、彼には失望している」と述べ、関係継続の可能性を残しました。

4. NATOへの評価一変:「時代遅れ」から「大きく変革」へ

かつてトランプ氏がNATOを「時代遅れ」と評していたことをオドノヒュー氏が指摘すると、トランプ氏は「今ではまったく逆になりつつある」と述べました。

トランプ氏はこの日、NATOのマルク・ルッテ事務総長とホワイトハウスで会談したばかりでした。ルッテ氏とは良い関係が築けているようで、両氏は世界中のカメラの前で温かい言葉を交わした後、アメリカがNATOに武器を供与し、それがウクライナに引き渡されることになるのだと発表しました。

オドノヒュー氏との電話の中でトランプ氏は、アメリカが他の加盟国よりも防衛費を多く負担していることへの不満が和らいでいる様子をうかがわせました。「前はアメリカがほぼ100%を負担していたので、とても不公平だった。今では各国が自分たちの分を支払っているので、その方がずっとましだと思う」と語りました。これは先月、NATO加盟国が防衛費を各国の国内総生産(GDP)の5%に引き上げることで合意したことを指していると考えられます。「自分たちがNATOを大きく変えたんだ」と、トランプ氏は自信をのぞかせました。

5. イギリスとスターマー首相への「特別な敬意」

トランプ氏は、イギリスとキア・スターマー首相に対する敬意を強調しました。両首脳は6月、一部の貿易障壁を撤廃する合意に署名しています。トランプ氏は、「首相のことは本当に気に入っている。彼はリベラルだけども」と述べ、政治的立場を超えた評価を示しました。

米英関係については、イギリス国民の多くがそう思いたがっているように「特別」なものだとトランプ氏は強調しました。もし戦争が起きた場合には、イギリスはアメリカと共に戦うはずだとの見解を示し、両国の揺るぎない絆を強調しました。

イギリスが自分を冷遇しているのではないかと受け取られかねない対応についても、トランプ氏は気にしていない様子でした。9月に予定されている公式訪問は、議会の休会期間に重なるため議会での演説は行われない見通しですが、大統領は議員の招集は求めませんでした。「みんな行きたいところへ行って楽しめばいい」と、トランプ氏は英下院議員たちについて語りました。

大統領はさらに、自分を招いたチャールズ国王については「素晴らしい紳士だ」と称賛しました。国王が5月にカナダ議会で行った演説が、トランプ氏の脅威に対するカナダの主権擁護と受け止められた件についても、気にする様子はありませんでした。トランプ氏は冗談さえ口にしました。「君たちはいろんな名前を持っている。いくつかの地域を除けばイングランドと呼ばれるし、UKとも言うし、ブリテン、グレートブリテンとも呼ばれる。歴史上一番たくさん、名前を持っている国なんじゃないか」

結論

今回のBBCによるドナルド・トランプ大統領への単独電話インタビューは、彼の一見予測不能なコミュニケーションスタイルと、その裏にある戦略的なメッセージを浮き彫りにしました。暗殺未遂事件に対する個人的な感情の吐露、移民政策における数字への言及回避、プーチン大統領への複雑な感情、そしてNATOやイギリスに対する評価の変化など、彼の多面的な視点が明らかになりました。

これらの発言は、今後のアメリカ政治の方向性、そして国際関係におけるトランプ氏の影響力を理解する上で極めて重要な手掛かりとなります。特に、NATOへの評価転換やイギリスとの「特別な関係」の強調は、国際社会におけるアメリカの役割が今後どのように再構築されていくのかを占う上で注目すべき点です。彼の言葉の端々からは、2期目の大統領職、あるいはその後の政治的動向への意欲と、それに伴う世界への影響が強く感じられます。

(c) BBC News
Source link