シカモア・ギャップの木、不法伐採犯に実刑判決:世界が怒った象徴の破壊

イギリス北部のノーサンバーランドに位置し、世界遺産「ハドリアヌスの長城」の象徴でもあった「シカモア・ギャップの木」が不法に伐採された事件で、英ニューカッスルの刑事法院は7月15日、ダニエル・マイケル・グレアム被告(39)とアダム・カラザーズ被告(32)の2人に対し、それぞれ4年3カ月の実刑判決を言い渡しました。2023年9月にチェーンソーでこの歴史ある木を切り倒し、その様子を撮影した両被告は、刑事損壊の罪で有罪となっていました。この前代未聞の破壊行為は、世界中で大きな喪失感と怒りを引き起こしています。

象徴の破壊:シカモア・ギャップの木、その歴史と重要性

シカモア・ギャップの木は、1800年代後半に、丘と丘の間の自然な窪み(ギャップ)に「風景の中の特徴的な存在」となることを目的に植えられたセイヨウカジカエデでした。その目的をはるかに超え、ローマ帝国のかつての国境に位置する観光名所として、またノーサンバーランドの「手つかずの自然美」の象徴として、広く愛されてきました。

この樹齢100年を超える木は、1991年にケヴィン・コスナー主演の映画「ロビン・フッド」に登場したことで世界的に知られるようになり、数多くの写真家や芸術家にとっても人気の被写体でした。多くの人々にとって「平穏で静謐」な「心の拠り所」であり、個人的な意味を持つ場所として何度も訪れられていました。この木は、管理を担っていたナショナル・トラストによって「決して代わりのきかない」存在だと語られています。

ハドリアヌスの長城の上に倒れた伐採後のシカモア・ギャップの木。世界的な怒りを買った象徴的な光景。ハドリアヌスの長城の上に倒れた伐採後のシカモア・ギャップの木。世界的な怒りを買った象徴的な光景。

不法伐採の詳細と犯人の動機

審理によると、両被告は2023年9月28日未明、闇に紛れて現場に車で向かったとされています。当時接近していた低気圧「ストーム・アグネス」の強風を利用し、この木を長城の上に倒そうとしたことが明らかになりました。カラザーズ被告がスプレーペイントとチェーンソーで木に印を付け、くさび状に切り込みを入れた一方で、グレアム被告はその様子を携帯電話で撮影していました。

量刑を言い渡したクリスティナ・ランバート判事は、弁護側が主張した「酔った勢いによる愚行」という弁論を退けました。判事は、この行為には「経験豊富な樹木医」による「高度な」技術と連携が必要だったと指摘し、被告らが酔っていたという主張には説得力がないとしました。明確な動機は不明としながらも、ランバート判事は「主な要因は純粋な虚勢だったと確信している」と述べ、木を倒し、それによって引き起こされた世間の怒りが両被告に「ある種のスリル」をもたらしたと指摘しています。さらに、事件後には「自らの悪名を楽しんでいた」とも付け加えました。

伐採された木の価値については、検察側が約45万8000ポンド(約9100万円)と主張したのに対し、グレアム被告の弁護団は約15万ポンドと主張しましたが、ランバート判事は、正確な金銭的価値は本件にとって本質的な問題ではないとの見解を示しました。被告らは現在、世間が自分たちをどれだけ嫌悪しているかを悟り、友情が崩壊したと述べています。

国民の感情と回復への取り組み

ナショナル・トラストのアンドリュー・ポード代表は法廷で読み上げられた声明の中で、「この象徴的な木は、決して代わりのきかない存在だ」と述べ、この木がナショナル・トラストによって国を代表して管理されていた「国民のものだった」と強調しました。シカモア・ギャップの木の破壊は「前例のない」愛情と感情の噴出を引き起こし、「世界中で圧倒的な喪失感と混乱が広がった」と語っています。

ポード代表は今回の「悪意に満ちた無分別な」破壊行為が「理解を超えている」とし、木がローマ時代の長城をまたぐように倒されたことも「あまりに無謀だった」と強く批判しました。一方で、破壊された切り株から「生命の兆候」として新芽が出ていることが確認されており、この木から採取した種子から育てられた苗木が今後イギリス各地に植樹される予定であることも明らかにされました。これは、この象徴的な自然遺産に対する深い愛情と、回復への希望を示唆しています。

シカモア・ギャップの木の不法伐採は、単なる樹木の破壊に留まらず、多くの人々にとってかけがえのない象徴、文化的なランドマーク、そして心の拠り所が失われたことを意味します。今回の判決は、そのような行為に対する社会の断固たる意思を示すものであり、自然と文化遺産保護の重要性を改めて世界に問いかけるものとなりました。

参考資料

  • BBC News (2024年7月16日). Men jailed for felling ‘irreplaceable’ sycamore.
  • Yahoo!ニュース (2024年7月16日). シカモア・ギャップの木、不法伐採犯に実刑判決 英裁判所.