米国が中国の台湾侵攻に備え考案した「ドローン・ヘルスケープ(hellscape・地獄図)」戦略に対し、中国がドローン対応専門部隊の創設を推進していることが明らかになった。米インド・太平洋軍(INDOPACOM)が構想する「ヘルスケープ戦略」は、台湾海峡で中国軍が突発攻撃を敢行した場合、数千機のドローンや無人潜水艦、水上艇を投入して中国軍の戦闘力を消耗させ、米軍の増援時間を稼ぐことを目的としている。この戦略名には、挑発行為に出れば地獄のような光景に直面するだろうという警告の意味が込められている。米国は2022年に中央情報局(CIA)が中国の台湾侵攻可能時期を「2027年」と推定して以降、台湾海峡問題に対する軍事対応戦略を構築。これに対し中国も軍の体系改編を進め、「中国版・地獄図戦略」で対抗する姿勢を見せている。軍事専門家たちは、台湾海峡が伝統的な武力衝突の場にとどまらず、ドローンとアルゴリズムが主導する新たな戦場となる可能性を予測している。
米国の「ドローン・ヘルスケープ戦略」とは
米国の「ドローン・ヘルスケープ戦略」は、中国が台湾侵攻を試みた際に、大規模な無人兵器群を投入し、その侵攻を困難にすることを狙っている。この戦略は、中国軍が台湾海峡を渡り始めた瞬間に、陸海空を覆う数千機の米軍ドローンが第一防衛線として機能し、中国軍艦隊の動きを阻止または遅延させることを想定している。これにより、米軍本体の増援部隊が到着するまでの「時間稼ぎ」を行うことが可能となる。現在、INDOPACOMの米軍兵力は約37万5,000人であるのに対し、中国軍は約200万人に達する。INDOPACOMのサミュエル・パパロ司令官は、このヘルスケープ計画が中国軍に「1カ月間、完全に悲惨なものにすることができ、我々が他の仕事をする時間を稼がせてくれるだろう」と語り、米軍の無人戦闘能力が「非対称的な優位」をもたらすと見込んでいる。
台湾海峡における米国のドローン・ヘルスケープ戦略と無人兵器の概念図
中国の「地獄図戦略」とドローン対抗部隊創設
米国のドローン・ヘルスケープ戦略に対し、中国もこれに対抗する動きを活発化させている。中国軍の機関紙「解放軍報」は7月3日付の記事「ドローン対抗戦で未来の戦争の姿を変える」の中で、「ドローンが戦争の主役に浮上したことに伴い、相手のドローン戦略をコントロールし抑制するための作戦体系の調整が必須」と伝えた。さらに、軍の専門家の話を引用し、「ドローン対応部隊の創設により、既存の戦闘部隊のドローン対応力を統合すべき」と提言している。中国軍は2016年初頭に、小型無人機の探知・無力化を任務とする特殊部隊を空軍に創設していたものの、陸上や海上戦闘に特化した専門的なドローン部隊はこれまで存在しなかった。香港紙「サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)」は7月7日、「中国当局が米国のヘルスケープ戦略を認識し、本格的に動いている」と分析しており、中国が米国の無人兵器戦略への本格的な対策に乗り出していることがうかがえる。
台湾海峡が示す未来の戦場像
ウクライナ戦争ではドローンが戦線拡大において重要な役割を果たしたが、台湾海峡で仮に発生する戦争は、初期段階からドローンが前面に登場する初の大規模戦争となる可能性が高いと見込まれている。米国のヘルスケープ戦略では、中国軍の艦隊が台湾海峡を渡り始めた途端、数千機の米軍ドローンが陸海空を覆い、最前線での防御を担うことになる。これは、大規模な有人兵力に頼ることなく、ドローンによる消耗戦を展開し、優位を確立しようとする「非対称的な」アプローチである。米中両国が、軍事戦略においてドローン技術の優位性を確立しようと競い合う中で、台湾海峡はまさに未来の戦争の様相を映し出す舞台となるだろう。
結論
米国の「ドローン・ヘルスケープ戦略」と、それに対抗する中国のドローン対応専門部隊創設の動きは、台湾海峡における軍事バランスが新たな局面に入ったことを示唆している。ドローンとアルゴリズムが戦場の主役となる「未来の戦争」が現実味を帯びており、米中両国はこの領域での優位性を確保すべく、技術開発と戦略構築を加速させている。台湾海峡を巡る緊張は、単なる兵力の衝突に留まらず、無人兵器システムとそれに対応する戦略の優劣が、今後の国際情勢を大きく左右する要因となるだろう。
情報源
- 米インド・太平洋軍(INDOPACOM)
- 中央情報局(CIA)
- 中国軍機関紙「解放軍報」
- 香港紙「サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)」