京アニ放火殺人事件から6年:祖母が語る大野萌さんの面影と尽きぬ思い

2019年7月18日に発生した京都アニメーション放火殺人事件から6年を迎えるにあたり、この悲劇で命を落とした大野萌さん(当時21歳)の祖母(71)が、今もなお募る孫への深い思いを語った。京都府木津川市に住む祖母は、愛おしい「おばあちゃん子」だった萌さんの声を聞きたくて、幼い頃のビデオ映像を何度も見返し、朝晩、遺影に手を合わせ続けている。本稿では、京アニが誇りだったアニメーターを目指した萌さんの人生と、遺族の尽きることのない悲しみ、そして希望の光に焦点を当てる。

祖母との温かい絆:絵を愛した「おばあちゃん子」

萌さんは小学生の頃、週末になると自宅近くの祖父母宅で過ごすことが多く、大きな声で「ばあちゃん」と呼んで玄関に入ってきた。祖母は、ピアノ教室への送り迎えや、銭湯への一緒の外出など、孫娘との時間を心から楽しんでいたという。幼い頃から絵を描くことが大好きだった萌さんは、祖母へも頻繁に自作の絵をプレゼントし、二人の間には温かい絆が育まれていた。

京都アニメーション放火事件の犠牲者、大野萌さんの成人式の写真。祖母が仕立てた着物を着て笑顔を見せる彼女の姿は、家族との深い絆を物語る。京都アニメーション放火事件の犠牲者、大野萌さんの成人式の写真。祖母が仕立てた着物を着て笑顔を見せる彼女の姿は、家族との深い絆を物語る。

アニメーターへの夢と京アニでの活躍

高校卒業後、萌さんはアルバイトで貯めたお金でアニメーター養成塾に通い、2018年には憧れの京都アニメーションに入社した。動画を担当するアニメーターとして、「25歳で作画監督になる」という目標を記した紙を自室の壁に貼り、深夜まで絵の練習に没頭する日々を送っていた。「京アニって言ったら、アニメ好きで知らない人はいないよ」と、自身の勤務先を誇らしげに語る萌さんの姿は、その夢への情熱を表していた。事件の前週には、商業施設で祖母と一緒に買い物に出かけ、祖母のために髪留めを買ってあげるなど、優しい心遣いを見せていた。

事件の衝撃と再生の兆し:アサガオに託された希望

2019年7月18日午前、京都市伏見区にある京都アニメーション第1スタジオが放火され、36名の社員が死亡し、32名が重軽傷を負うという悲惨な事件が発生した。萌さんがこの事件に巻き込まれたことを知った時、祖母はただ涙が止まらなかったという。しかし、悲しみだけではない、小さな希望の兆しもあった。2023年春、自宅の庭先でアサガオの芽を見つけた祖母がそれを花壇に移すと、夏には10輪ほどの紫色の花が咲き誇った。萌さんが小学生の頃、学校から持ち帰った種を植えて育てていたのがアサガオだったことから、祖母は「めぐちゃんが励ましてくれている」と感じたという。

忘れ得ぬ声:ビデオに刻まれた笑顔と祖母の願い

萌さんの声を聞きたくなると、祖母は幼い頃から撮りためていたビデオ映像を繰り返し見返す。3歳のお宮参り、保育園の入園式、中学校の卒業式――。写真では顔が見られても、声は忘れがちだと語る祖母は、ビデオの中の萌さんの高い笑い声、「はははっ」という無邪気な響きに心が安らぐ一方で、「会いたい」という思いが募るのを感じる。そんな時、祖母は萌さんの遺影にそっと語りかける。「向こうでも、仲間と好きな絵を描いてるのかな。夢の中でもいいから会いに来てほしいよ。待ってるから」。

萌さんが残した温かい記憶と、祖母の尽きることのない愛情は、事件の悲劇を超え、今も生き続けている。

参考文献