近年、日本社会で参政党が勢いを増し、その支持基盤を広げている。慶應義塾大学の烏谷昌幸教授は、自身の著書『となりの陰謀論』での知見に基づき、この現象を「アメリカのような陰謀論政治が日本で生まれるとは思っていなかったが、見立てが甘かった」と分析する。烏谷教授は、参政党が、トランプ前大統領と同様に、人々が無意識に抱える不満を争点化することで支持を集めていると指摘する。
慶應義塾大学教授の烏谷昌幸氏が講演する様子。同氏は陰謀論の専門家として知られる。
陰謀論の根源:「剥奪感」と「社会の分断」
陰謀論が生まれる背景には、何かが奪われるという感覚、あるいは他者に比べて自分が著しく不利益を被っているという「剥奪感」がある。例えばアメリカでは、白人人口比率の減少に伴い、彼らが優越的な地位を失うことへの明確な危機感が存在する。多くの白人は、自国にいるにもかかわらず、見知らぬ土地に取り残されるような、あるいはこれまでの快適で幸福な環境を奪われるような感覚を抱いている。著名な歴史学者リチャード・ホフスタッターが指摘するように、陰謀論はこうした剥奪感や社会の分断の中から芽生え、アメリカ社会には建国以来、波のように繰り返し流行が訪れてきた。2016年のドナルド・トランプ大統領の誕生は、陰謀論の一大ブーム期を再び到来させたと言えるだろう。
トランプ政治と陰謀論の悪用
トランプ前大統領は、国家の意思決定に影響を及ぼす闇の政府や既得権益層を指す陰謀論の一つである「ディープステート」の存在を否定しなかった。本来、政党政治は、民衆が持つ被害妄想や事実とは異なる陰謀論的な訴えをノイズとして慎重に除去し、「民の声」を適切に翻訳し、人々の利益を集約する役割を果たすべきである。しかし、トランプ前大統領は「民の声」の中に含まれる陰謀論的な訴えや被害妄想を積極的に利用した。彼は陰謀論を政治的な武器として悪用する技術に長けていたのだ。
2021年1月6日、アメリカ連邦議会議事堂を襲撃し、不正選挙陰謀論を信じるドナルド・トランプ元大統領の支持者たち。
2021年1月6日に起きたアメリカ連邦議会議事堂の襲撃事件は、「選挙が盗まれた」と訴える「不正選挙陰謀論」(2020年の大統領選の本当の勝者はトランプなのに、民主党バイデン陣営が不正な方法で勝利を盗み取ったと訴える陰謀論)を使い、トランプ氏が支持者を扇動して引き起こされたものである。陰謀論を駆使してこれほどの大事件を引き起こす政治家は、日本にはそうそう出現しないだろう、アメリカのような陰謀論政治は日本では生まれないだろうというのが、これまでの烏谷教授の率直な印象だった。しかし、最近の参政党の躍進を見ていると、従来の甘い見立てを改めざるを得ないと感じているという。
参政党躍進の要因:前向きな国家論の渇望
現在行われている参議院選挙においても、参政党は支持を伸ばしている。その理由の一つとして考えられるのが、日本社会における「前向きな国家論の空白」である。夢や希望を語る明るい国家論に対する強い渇望感が、参政党の躍進の背景にあると烏谷教授は分析する。
結論
参政党の支持拡大は、単なる政治現象に留まらず、日本社会に潜在する「剥奪感」や「前向きな国家論の空白」といった心理的・社会的な要因が深く関わっていることが烏谷教授の分析から示唆される。アメリカにおける陰謀論政治の台頭と比較することで、日本においても同様の傾向が見られる可能性が指摘されており、今後の政治動向を理解する上で重要な視点を提供する。
参考文献
- Yahoo!ニュース. (2025年7月18日). 参政党が支持を集めているのはなぜか。『となりの陰謀論』の慶応大学教授が解説「見立てが甘かった」. https://news.yahoo.co.jp/articles/a1ed7cccf327215d6834c564fffa26ebda2ca46d